研究課題
本研究ではテラヘルツ(THz)パルスと走査トンネル顕微鏡(STM)を組み合わせた時間分解THz-STM装置を開発・改良し、サブピコ秒時間分解能かつ原子分解能で電子ダイナミクスのイメージングすることを目指している。本年度は主に、(1)フラーレン分子薄膜中の電子ダイナミクスのイメージング (2)STM装置のアップグレード (3)波長可変光源として光パラメトリック発振器(OPO)の導入を行った。(1)については、フラーレン分子薄膜中に光パルスによって注入された電子の密度分布をサブピコ秒、1分子分解能でイメージングすることに成功し、電子ダイナミクスのピコ秒動画を撮影することに成功した。得られた成果をまとめてACS Photonics誌に出版した。(2)これまで用いてきた旧式のSTMから、最新型の低温STMへアップグレードを行った。通常のSTMとして問題なく動作すること、最低到達温度として12Kまで試料を冷却できることを確認した。また最低到達温度において良好な熱ドリフト性能、高い熱的安定性を有することを確認することができた。THzパルスを導入し室温条件下でTHz誘起トンネル電流を観測することに成功した。(3)様々な試料の光励起を可能にするためOPOの導入を行った。1300nm~2000nmの範囲にわたって500mW以上の赤外パルス(パルス幅300fs)を得ることができた。OPOの後段に2倍波発生機構を導入することで可視~赤外域の広範囲にわたって励起波長を選択可能なシステムへと改良された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の研究実施計画にある「サブピコ秒時間分解能での電子ダイナミクスイメージング」をフラーレン分子薄膜に対して行うことに成功し、成果を論文として報告し大学よりプレスリリースすることができた。年度の後半はSTMのアップグレードと波長可変光源の導入などシステムの改良を中心に進め年度内にほぼ完了することができた。よって本研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
2021年度は昨年度立ち上げた装置を用いて遷移金属ダイカルコゲナイド原子層(TMDC)のキャリアダイナミクス計測を行う。MoS2などの原子層半導体を光パルスにより励起し、生成したキャリアのダイナミクスをイメージングする。原子レベルの高い空間分解能でイメージングすることにより、原子層中の欠陥、バウンダリー、積層構造に由来するモアレ構造などの微視的構造がキャリアダイナミクスにどのような影響を及ぼすかを明らかにする。そのための準備としてまずは機械的剥離法を用いたTMDC試料の作成を進め、測定に適した試料が出来次第測定を進める。上記の計画と並行してTHz CEPシフタを光学系に組み込むことでTHz電場位相を制御可能なシステムの構築を進める。CEPシフタはTHzパルスの透過率が40%程度と低くTHz強度の不足が懸念されるため、THz光学系の最適化を行うことでCEPシフタ導入による強度低下分を補う。CEPシフタを用いてTHz電場振幅と極性を連続変化させることでピコ秒時間分解能でトンネルI-Vカーブの測定「時間分解トンネル分光」が可能となる。システム構築後はTMDC試料を対象とした実験を行うことで動作実証を行う。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 3件)
ACS Photonics
巻: 8 ページ: 315-323
10.1021/acsphotonics. 0c01572
Appl. Phys. Lett.
巻: 117 ページ: 211102
10.1063/5.0032573