研究課題/領域番号 |
20H00345
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
福間 剛士 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90452094)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
生細胞表面における分子分解能観察を目指した原子間力顕微鏡(AFM)技術開発に取り組んだ。直径数μmの穴が多数設けられた窒化シリコン膜上に細胞を培養し、その穴を通して細胞底面を観察する技術を確立した。また、市販のAFMを用いたホッピングモード観察により、約10 nm程度の大きさの凸構造が細胞表面で拡散する様子を観察することに成功した。一方で、さらなる分解能の向上のために、自作AFMヘッドと共焦点顕微鏡の複合機開発に取り組んだ。AFMとしての機能は確認できたが、窒化シリコン膜上に培養した細胞が観察中に剥離する問題が明らかとなった。その原因を詳細に検討した結果、カンチレバーの励振レーザによって細胞がダメージを受けている可能性が高いことが分かった。これを受けて、励振レーザの出力を必要最低限に抑制する方法と、磁気励振法を用いる方法、励振を必要としないホッピングモード計測などの可能性を並行して検討している。また、開発した技術を用いて、化学固定前後の細胞表面構造を高分解能に観察したところ、化学固定により表面の凹凸が大きくなることが分かった。この原因を詳細に調べたところ、細胞研究で頻繁に用いられる化学固定法によって、細胞表面の分子レベルの構造は大きく変わってしまうということを発見した。これは当初予定していた内容ではないが、分子細胞生物学分野の研究において、非常に重要な発見であるため、この結果をまとめて論文投稿した。また、MET受容体をノックアウトしたPC9細胞(ヒト肺がん細胞)と、それにMET受容体をノックインした細胞を準備し、それらの表面構造を比較した。しかし、それらの違いは形状像からは捉えることが困難であった。そこで、より表面構造が単純だとされるCHO細胞を使って、同様の細胞を準備し、現在その比較を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発については、すでに原理検証に成功しており、性能改善の段階にある。一方で、応用については、分子識別の部分で苦労はしているが、これは当初より予想された苦労である。また、当初計画していなかった細胞の化学固定による構造変化の発見は非常にこの分野において重要な発見であり、その点はむしろ予定外の成果が得られている。総合して考えると、概ね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
技術開発については、自作AFMと共焦点顕微鏡の複合機開発において、励振レーザの出力を抑制する方法や、磁気励振、ホッピングモードなどを試すことで、細胞へのダメージを抑制し、分子スケールの高分解能観察を実現する。一方、応用においては、CHO細胞にMET受容体をKI/KOした細胞の表面構造を比較する。また、同時に開発しつつあるDNA折り紙を用いた形状ラベルを用いて、表面の凹凸構造がどの分子に相当するのかを同定する方法を確立する。これらの使って、MET受容体の過剰発現が、がん薬剤耐性獲得機構とどのように関係するのかをナノレベルで明らかにすることを目指す。
|