研究課題/領域番号 |
20H00347
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥田 太一 広島大学, 放射光科学研究センター, 教授 (80313120)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル相転移 / スピン・角度分解光電子分光 / 外場印加下光電子分光 / マイクロビーム |
研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体に代表されるトポロジカル物質の外場(温度、圧力、電場など)によるトポロジカル相転移は理論的に予測されているが、実験的な実証はまだほとんど行われていない。本研究では、トポロジカル物質の電子状態(バンド分散、スピン偏極)を直接観測できるスピン・角度分解光電子分光を外場を印加しながら行いトポロジカル相転移の物理を解明することを目的としている。一方、スピン・角度分解光電子分光法は測定効率が悪いという問題があるため、様々な条件下での電子状態を効率よく観測するための工夫が必要となる。そこで、本研究では意図的に試料に温度勾配、圧力勾配、電場勾配などを生じさせ、測定に用いる励起光(放射光、レーザーなど)を微小に絞り、試料上の位置を変化させて測定することにより効率よく外場の変化による電子状態の変化を観測する予定である。そのための準備として令和2年度は我々の所有するスピン・角度分解光電子分光装置の設置されている放射光ビームラインの放射光ビームを微小化するための取り組みを行った。ビームの微小化には回転楕円面を有するキャピラリー型のミラーを用い、現状のビームスポットサイズの約1x1mm程度のビームを100x100ミクロン程度のマイクロビームに絞る予定である。そこで、このキャピラリー型のミラーの設計・製作を開始し、銅製のテストミラーを製作した。また、放射光を試料上に正確にフォーカスさせるためにはミラーの位置をミクロン単位で正確に制御する必要があるため、ミラーの微調機構を導入した。さらにミラーで反射したビームを電子アナライザーの焦点位置に正確に導くため、装置全体を放射光に対して位置調整する必要もあり、装置の位置調整機構を導入した。これらの調整機構を年度内に全て設置し、動作テストを完了した。また、試料に外場を印加するため、既存の試料マニピュレータの改造も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外場印加下での光電子分光は、光電子が外場により影響を受ける可能性があるため、あまり行われてこなかった。しかし、近年試料ホルダーを工夫することにより一軸圧力を印加した試料の測定や、電場をかけた試料の測定などが報告され始めている。また温度を変化させて測定を行うことはこれまでにも行われてきたが、温度制御が難しいため、多数の温度での測定は困難であった。本研究では光電子分光に用いる励起光を微小に絞ることにより、圧力勾配、電場勾配、温度勾配などをつけた試料上で測定位置を変えることにより様々な条件下での電子状態の変化を効率よく観測し、近年理論的に予測されているトポロジカル物質の電子状態の相転移を観測することを目的としている。そのため、微小サイズの励起光を用いることが測定の効率化の肝となるが、現有のスピン・角度分解光電子分光装置が設置されている放射光ビームラインの光はビームサイズが大きく微小化する必要がある。しかし、微小化するために一般に用いられるK-Bミラーなどのミラーは設置に大きなスペースを必要とするため、既存のビームラインには設置困難であった。そこで本研究では最近開発され、普及し始めているキャピラリー型の小型ミラー(長さ50mm)を導入し、狭い設置空間でもマイクロビームの利用を可能とする計画を立てた。 初年度は計画に向けた準備として、銅製のプロトタイプのミラーを設計・製作し、ミラーの位置を正確に調整する位置決め機構の導入、装置全体を放射光ビームラインに対して位置合わせをする機構などの導入も完了するなど、ビームの集光テストを行う準備が順調に進んでいる。 なお、実際の測定では、反射率の向上や酸化による劣化を抑えるために金メッキされたミラーを導入する予定であるが、現在金メッキミラー製作の最適な条件出しを進めているところである。 以上のように、概ね計画どおりのスケジュールで順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画遂行の一つ目の課題である放射光の微小ビーム化に向けた、ミラーの設計・製作、ミラー位置決め機構の導入など順調に進んでいる。次年度は導入したミラーとミラー位置決め機構を用いてミラーの調整を行い、最適な集光条件を探索し確立する。また、より性能の向上した金メッキミラーの導入を8月中に行う予定である。一方計画遂行のもう一つの課題である外場印加のための試料ホルダーの設計・製作も平行して進める。最近、圧力印加、電場印加の方法がいくつかのグループから報告されており、それらの方法を参考に独自の設計・製作を行っていく予定である。また集光された光を外場印加された試料上で正確にスキャンするためのマニピュレータのXYZ駆動機構についてもすでに設計を開始しており、一部の必要物品も購入済みである。これらの装置・設備によりトポロジカル相転移を起こすことが理論的に予言されている物質について、外場を印加した状態でのスピン・角度分解光電子分光測定を行い、相転移の有無の実証や相転移が生じた際のそれに伴う電子状態の変化などの詳細観測を進めていく。 一方、ビームラインから放射光をこの集光ミラーに導くための既存の後置鏡の焦点距離が、設計どおりの焦点距離となっていないことが最近判明した。そのため現状のままだと予定していたマイクロフォーカス(100x100ミクロン以下)の達成が困難であり、測定の効率化が十分行えない可能性がある。そこで、来年度の施設予算を活用して後置鏡を交換することを現在検討している。なお、万一来年度の後置鏡の交換が困難な場合には、既存のレーザ光源を用いたマイクロビームによる実験も検討する予定である。
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