研究課題/領域番号 |
20H00364
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 陽一 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (50210729)
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研究分担者 |
神戸 正雄 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (60705094)
菅 晃一 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (60553302)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射線化学 / 量子ビーム / ナノファブリケーション / 電子加速器 / パルスラジオリシス |
研究実績の概要 |
原子炉水化学、重粒子線治療、ナノテクノロジー等の量子ビーム応用分野では、量子ビームによるイオン化直後の現象の解明の重要性が指摘されている。そこで、本研究では、量子ビーム誘起による超高速反応の測定を実現するために、レーザー変調電子ビーム圧縮方式を開発し、アト秒の時間分布を有する電子ビームの発生を目指す。サブフェムト秒の高エネルギー電子ビームを用いた超高速時間分解分光法サブフェムト秒パルスラジオリシスを構築し、熱化前活性種の熱化・緩和過程、および、その反応性を調べることを目的とする。令和2年度(2020年度)は、アンジュレータの試作およびパルスラジオリシスの拡張に関する研究を行った。 レーザー変調を効率よく行うためには、アンジュレータ周期・磁場強度を最適化する必要がある。試作アンジュレータの磁場強度計算および測定を行った。計算ではPoisson Superfishを用いた。電子ビームの鉛直方向に着磁されたネオジム磁石で20周期を電子ビーム進行方向に並べて、さらに上下に配置(計80個)した場合の計算を行った。さらに、ギャップ長を約3 mm条件ホール素子を掃引して、磁場測定を行った。その結果、磁場強度は約0.42 Tであり、計算結果との差異は最大で30%程度であった。 量子ビーム誘起化学反応初期過程の解明では、液体試料について、パルスラジオリシスを用いて吸光度測定に対する電子ビーム強度依存性を測定し、S/Nを評価し、有効な計測の実現のための電子ビーム強度を求め、S/N向上手法を検討した。また、THz光を検出光とした計測を液体試料に適用するため、試料を液体ジェットとして用いるための試験を行った。安定で膜厚が一定となる条件を検討した。また、特に極性溶媒では光学系部分の空間への溶媒蒸気の混入はTHz光の減衰を引き起こすため、差動排気や、乾燥窒素によるパージによる溶媒蒸気の処理を試験した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンジュレータの試作として、磁場強度計算および測定環境を整えた。現段階の試作アンジュレータのギャップ長は固定であるが、可動機構を設けることにより、磁場調整が可能になると考えられる。一方、計算ではPoisson Superfishを用いて、磁場計算の自動化プログラムを構築した。測定結果と計算結果との差異はあるものの、今後の別のアンジュレータの設計指針模索の可能性も期待される。会社からのアンジュレータ(ギャップ長は固定)も導入しており、両者の比較を行いつつ、レーザー変調実験の準備を行う事ができた。 液体試料として、ドデカン、THF、直鎖アルコール(C1~12)について紫外~近赤外光によるナノ秒および、フェムト秒パルスラジオリシスによる電子ビームの電荷量に依る依存性を測定し、各中間活性種についてのモル吸光係数のスペクトルを水和電子の既報によるモル吸光係数を標準物質として求めた。また、通常は検出光の全ての光路において電子ビームの軌跡と重なった条件での測定が正しい測定に必要であり、当然そうする。しかし、極短パルス電子ビームを用いた場合、電荷量の低減とともに、電子ビーム径が縮小されるため、検出光光路と電子ビーム軌道を重ねることが難しくなることが予想される。これに対処するため、光路と軌道の重なりが不完全、または、電子ビームの軌道の方が光路よりも小さい場合に、正しい計測値を得られる手法の開発を行った。また、THz光を用いたパルスラジオリシスについては、各溶媒・溶液について、各種のジェットノズルを用いて、安定なジェットを作成する条件出しを行った。また、実際の膜厚はパルスラジオリシスによる過渡種のモル吸光係数から求めた値と、定常状態の紫外可視吸収分光法による方法から得た値を比較検討し、膜圧の変動と評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
試作アンジュレータのギャップ長に可動機構を設けて、磁場調整を行う。また、納入されたアンジュレータの試験を行う。両者のレーザー変調電子ビーム圧縮を行い、アト秒電子ビームの密度変調の実験を行う。変調が困難であれば、Poisson Superfishを用いた磁場計算の自動化プログラムも利用し、3次の相互作用についても検討を行う。また、レーザー変調電子ビームを利用し、「ダブルデッカー電子ビーム」による「ダブルデッカーパルスラジオリシス」をサブフェムト秒パルスラジオリシスに実装する。2つの電子ビーム対の一方を分析光に変換し、他方をイオン化源として用いることにより、同期時間ジッターが発生しない系を構築する。 フェムト秒パルスラジオリシスシステムに、液体ジェットシステムとマイケルソン干渉計システムに同時に実装し、THz光によるパルスラジオリシス法を液体試料に対し、実際に適用し計測する。このとき、紫外~近赤外の通常のパルスラジリシスと、THzパルスラジオリシスを簡便に切り替えられるように実装するとともに、信頼性の高い計測システムとして完成させる。
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