化学領域「超ボルン・オッペンハイマー化学」、あるいは「非断熱電子動力学理論」で支配される領域の基礎理論をより一般的に定式化し、原子核の動きと同期して電子波動関数が実時間変動する様子を直接観る方法論を開拓し、新たな結合論、反応論、電子状態論に関する化学概念の深化と応用を目的として研究を行ってきた。最終年度の研究で、従来の化学理論を超える、高いエネルギー領域の励起分子における電子状態や化学結合などにおいて、全く新しい研究分野の開拓に至ったと自負している。本年度に特化していえば、(1)非断熱電子混合状態の集団変数分解の開発と応用、(2)ヒルベルト空間上において拡散状態で時間発展する電子状態の分子電子量子カオスとしての最初の同定とその化学的意義の解明、(3)高励起状態における巨大な電子揺らぎから発生する電子・電子エネルギー流とそれにもかかわらず分子を支える化学結合の解明、(4)分子内電子状態の音表現(sonification)の初めての提案、(5)ラジカル反応のスピンカレントにより初めての解析、など理論化学の可能性を大きく発展させる成果を上げることができた。4年の研究期間全体における研究成果の詳細は最終報告書にて記述するが、本年度も大きな成果を挙げて本課題研究を締め括ることができた。
|