研究実績の概要 |
π共役拡張芳香族化合物の合成法の確立と電子構造の解明、結晶構造制御は、ナノカーボン材料から低分子有機半導体まで、幅広い芳香族化合物の基礎学理の深化と有機エレクトロニクスの発展において極めて重要である。本申請課題では、我々が独自に展開している“前駆体法”を最大限に活用し、合成法の開発と結晶構造制御の2つの側面からπ共役拡張芳香族化合物の化学に貢献するため、①前人未到の超高次アセン・シクラセンの基板表面支援合成と電子構造の解明、単結晶トランジスタへの挑戦;②置換基エンジニアリングによる低分子有機半導体開発と塗布プロセスによる結晶構造制御、の推進を目的に研究を展開した。 ①に関しては、テトラアザウンデカセン、テトラアザノナセンの熱前駆体の合成に成功し、金(111)基板表面での反応性の解明とテトラアザウンデカセンの電子構造を実測した(Nat. Commun. 2022, 13, 511)。また、ノナセン光前駆体のグラフェン/Ru(0001)表面での光反応性は100%とAu(111)面の2倍以上であり、基板表面の状態が分子の反応性に大きく影響することを証明した(Nanoscale Horiz. 2021, 6, 744)。このように、基板表面支援合成反応における化合物の反応性に関する新しい知見を得ることで大きく貢献した。 ②に関しては、トリイソプロピルシリルエチニルテトラベンゾポルフィリン(TIPS-BP)の単結晶トランジスタの性能評価や(J. Mater. Chem.C 2022, 10, 2527)、フタロシアニンとテトラベンゾポルフィリンの類縁体である、TIPS-ジアザテトラベンゾポルフィリン(TIPS-DABP)の合成法を確立し(J. Porphyrins Phthalocyanines 2921, 25, 1186)、その半導体特性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
基板表面支援合成に関しては、通常のフラスコ反応とは異なる特異な反応性に関する、多くの発見があった。例えば、フラスコ内では協奏反応であるretro-Diels-Alder反応が段階的に進行すること、溶液反応では安定なetheno架橋が加熱により容易に脱離することなど、高次アセンやグラフェンナノリボンのボトムアップ合成に重要な知見が得られた。また、同じ光前駆体でも基板表面の性質により大きく反応性が異なることを実証した。 一方、ポルフィリン類だけでなく、アセン類に関しても、分子骨格に酸素原子を組み込んだ新しいピセンの合成(Org. Lett. 2021, 23, 3986)など、新規材料の開発も着実に進めている。さらに、名古屋大学忍久保・福井グループとの共同研究により、新しいn型材料のトランジスタ特性の評価に貢献するなど(Angew. Chem. Inter.Ed. 2021, 60, 14040) 、着実に研究を進めている。
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