研究課題/領域番号 |
20H00381
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮坂 等 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50332937)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多孔性磁石 / 金属ー有機複合骨格 / ガス吸着 / 磁気相変換 / 多重情報変換システム / 溶媒吸脱着 / 結晶ー結晶転移 / 温度誘起電子移動 |
研究実績の概要 |
多様なガス雰囲気に対する化学ー物理情報変換を可能にする環境応答型多孔性磁石を提案することを目的に研究を行った。本年度は、ゲスト分子に依存した動的な電子移動や結晶ー結晶転移を起こす錯体格子の開発とゲスト導入下その場観測という観点から研究を行い、特筆すべき3つの重要な成果を見出した。 1)我々はこれまでに電子ドナー(D)であるpaddlewheel型Ru二核(II,II)錯体と、DCNQI、TCNQ誘導体などの電子アクセプター(A)からなる電荷移動型集積体(D/A-MOF)を合成し、構築ユニットにおける置換基の化学修飾によって、集積体の電子状態や磁気的性質の設計や制御を行ってきた。今回、15個の新規中性DA一次元鎖を含めた一連の物質群を用いることで、DAユニットの酸化還元電位およびHOMO/LUMOエネルギーと集積体の電子状態との相関を示すダイアグラムを新たに作成することに成功した。本研究におけるダイアグラムによって、異なる次元性のD/A-MOFについて、電子状態の予測を精密に行うことが可能となる。 2)ベンゼンなどの小分子を吸着させることで、磁石でない状態から磁石へと変換する新たな多孔性材料の開発に成功した。特に、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ジクロロエタンの吸着では常磁性体がフェリ磁性体に変換されるが、二硫化炭素の吸着では、反強磁性体に変換される。ゲスト分子で異なる磁気相への変換を可能にした最初の例である。 3)我々が以前開発したテトラオキソレンFe二次元層状化合物をカソード材とするリチウムイオン電池を設計し、電気化学的に常磁性状態と相転移温度100 Kに達するフェリ磁石のスイッチを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目標は「多様なガス雰囲気に対する化学ー物理情報変換を可能にする環境応答型多孔性磁石」の開発である。そのためには、異なるゲスト分子を吸着し、そのゲスト分子に依存した物理的な応答を発信する錯体格子の設計が必要である。今回、ゲストフリー体の常磁性体(非磁石)からゲスト導入された磁石への変換が初めて見出されただけでなく、ゲストによりフェリ磁性体と反強磁性体を作り分けることに成功した点は、大きな前進である。本発表は、東北大学からプレス発表を行った。また、現在遂行中の内容ではあるが、分子の大きさが非常に類似している二酸化炭素とアセチレンを区別する錯体格子について研究しており、高々数分子の二酸化炭素とアセチレン吸着を区別して磁気相を変換する系を見出している。現在その場観測によりゲスト分子の吸着状況と磁気変化を確認中であり(研究継続)、本研究期間中には論文として発表するつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、動的な電子移動や結晶ー結晶転移のゲスト応答についての研究を進め、新規な錯体格子の開発を基本として、ゲスト分子応答に対する構造および物性柔軟性を明らかにする。下記3つの研究を重点的に展開する予定である。 1)O2とN2(常磁性と反磁性)、CO2とアセチレン(反応性が全く異なる)などの類似のガス分子でありながら、性質の異なるゲスト分子について、そのガス吸着と応答性を明らかにする。 2)分子内水素結合により電子ドナー性を変化させる水車型ルテニウム錯体を見出しているが、それを用いたD/A-MOFの開発と水素結合に影響を与えると予想されるゲスト分子を用いた格子内電荷移動のゲスト応答性の検討。 3)外場として、「光照射」の可能性を調べる。これまでに、いくつかの温度誘起電子移動錯体格子を開発するに至った。また、ゲスト分子に依存して電子移動を誘発する系も見出している。新たな方向性を探る上で、外場として「光」の可能性を試みる。まずは「ガス下光照射磁気測定」のセルを開発し、測定のセットアップを確立することを今年度中に完了する。本研究主題は、今後海外の研究者との共同研究で進めることも決まっており、多孔性としての性質と光外場応答性のカップリングについて重点的に検討する予定である。
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