研究実績の概要 |
物質の分極特性を電場、温度、圧力等により制御できる分極制御物質は強誘電メモリー、センサー、環境発電素子をはじめとした幅広い応用を有する。このため、強誘電体を中心に新物質開発、基礎物性の解明およびその応用研究が盛んに行われてきた。分子性物質においてもイオン変位、分子配向変化、電子移動を分極変化のメカニズムとする様々な新物質が開発されている。本研究では、エナンチオピュアな配位子の利用した新規分極制御物質の開発を検討した。エナンチオピュアな配位子を有する錯体はエナンチオモルフィックな構造をとり、焦電特性を有する極性結晶を形成する確率が高い。本研究で検討した錯体は、[Co(3,5-dbdiox)2RR-L]dioxane (RR-1) および [Co(3,5-dbdiox)2SS-L]dioxane (SS-1)である(RR-L = RR体配位子L、SS-L = SS体配位子)。磁気特性、赤外吸収スペクトル、量子化学計算の結果により、RR-1およびSS-1は室温付近でコバルト-配位子間電子移動を示し、電子状態が低温相の[Co3+LS-(3,5-dbcat)2-]から高温相の[Co2+HS-(3,5-dbsq)-]に変化することを明らかにした。これらの結果により、RR-1およびSS-1は温度変化により分子レベルで双極子モーメントがスイッチすることが分かった。さらに、X線構造解析を行い、RR-1とSS-1が極性構造を有し空間群がいずれもP21であることを明らかにした。以上の結果は、RR-1とSS-1は分子レベルでの双極子モーメントの変化が互いに打ち消しあうことなく、マクロな分極の変化として現れる新物質であることを示している。
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