研究課題/領域番号 |
20H00387
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 峻一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40716718)
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研究分担者 |
下位 幸弘 筑波大学, 数理物質系, 研究員 (70357226)
岡本 敏宏 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (80469931)
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機半導体 / スピン軌道相互作用 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、有機半導体におけるスピン軌道相互作用(SOC)の「制御」・「理解」・「機能化」を三位一体とし、スピンオービトロニクスを基盤とした革新的電子スピンデバイスの創成を目指す。SOCはスピン磁気モーメントと電子の軌道運動が生み出す磁場の相互作用である。無機個体におけるSOCの研究は古くから行われているものの、軽元素から構成される有機固体におけるSOCは意味だに未解明な部分も多い。本研究では、適切にSOC制御されたヘテロアセン分子群を用いて、革新的な電子スピンデバイス実装の足がかりとなる基盤研究を遂行してきた。ここでは、合成化学・凝縮系固体物理学・デバイス工学を包括的に組み合わせることでのみ実現する有機スピンオービトロニクスの学理を整備し、有機半導体ならではのフレキシビリティや低温・塗布プロセスの強みを活かした革新的な基盤技術・マテリアルサイエンスへと展開する。 研究四年次では、スピン磁化率の温度依存性から高密度キャリア下の電子状態計測を進めると同時に、SOCの理論的なアプローチは密度汎関数計算をベースに下位幸弘と共に行った。極低温における磁気抵抗効果からSOCの強さを電気的に決定することが可能となり、顕著な成果が得られつつある。岡本・中野谷らの合成チームとの連携も進み、スピン緩和の原因となるプロトンを排除した重水素化ヘテロアセン系材料の開発も進みつつある。100mK程度までの極低温における磁気輸送特性計測および、共通利用施設を用いた80 T程度までの強磁場実験から、有機二次元電子系における量子振動の計測などの新奇な電子状態も発見されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究四年次では、初年度から継続して立ち上げてきた物性計測手法の開発が概ね達成され、合成チーム・理論チームとの連携も進みつつあり、最終年に向けた準備がようやく整備されたと言える。また、微細加工プロセスにも進捗が見られ、スピンデバイスの製造も可能となっている。一方で、合成チームとの共同で進めているSOC変調材料に関しては、結晶薄膜の製造が困難であるなどの課題が残り、デバイス化に至る道筋が立っていない。電子スピン共鳴などの分光手法を改良し、多結晶薄膜においてもSOCの定量化が可能な方法論を見出しつつあるため、最終年に向けて課題解決が可能であると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年次には、スピン軌道相互作用の低温物性測定および理論計算を継続して実施する。低温物性測定では、実施者が保有する無冷媒型クライオスタットを用いた磁気輸送計測に加えて、電子スピン共鳴などの分光計測を合わせて実施する。実デバイスでより重要となる固体中のSOCの評価を磁気輸送特性から実施する予定である。スピン軌道相互作用に由来する特徴的な磁場応答特性や低温輸送特性も引き続き評価する予定である。100mK程度までの極低温実験や80Tまでの強磁場実験も可能となったため新規機能性開拓にも突破口が見えている。デバイス製造に関しては、電子線リソグラフィを利用したメゾスコピックデバイスの製造プロセスも確立しつつある。
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