研究実績の概要 |
今年度は、有機薄膜の分子構造と自発配向分極(SOP)の関係を調べるために、2,5,8-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)ベンゾ[1,2-b:3,4-b´:5,6-b´]トリチオフェン(TPBTT)およびそのエチル誘導体(m-エチル-TPBTT)を合成した。分光エリプソメトリおよび2次元斜入射広角X線散乱法により、TPBTTおよびm-ethyl-TPBTTの真空蒸着膜は、 2′,2″-(1,3,5-ベンジントリル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)に比べて基板に平行な分子配向の度合いが高いことがわかった。π共役ベンゾトリチオフェンのコアが大きく水平配向しやすいものと考えられる。しかし、TPBTT膜はTPBi膜(+77.3 mV/nm)に比べてSOPが+54.4 mV/nmと低く、分子配向だけではSOPは決まらないことがわかった。一方、m-エチル-TPBTTは、膜中で+104.0mV/nmと大きなSOPを示した。密度汎関数理論に基づく量子化学計算により、TPBTTとm-エチル-TPBTTの安定コンフォメーションや永久双極子モーメントの違いが、SOPの違いを引き起こしたことが示唆された。これらの結果から、薄膜中で大きなSOPを得るためには、分子の配向秩序とコンフォメーションを同時に制御することが重要であることが示唆された。 また、1,3,5,7-テトラキス(1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アダマンタン(TPBAD)のSOPと光安定性について検討し、TPBiと比較した。TPBAD(正四面体状)とTPBi(円盤状)の分子形状は大きく異なるが、これらの真空蒸着膜はそれぞれ+74.7および+77.2 mV/nmという同様の高いSOPを示した。アダマンタンの非共役コアにより、TPBADはTPBi(3.50 eV)よりも広い光学バンドギャップ(4.22 eV)を有していた。この結果、TPBAD膜中のSOPの光照射下での安定性が向上し、減衰時定数はTPBi膜の10倍となった。
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