研究課題/領域番号 |
20H00394
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮崎 讓 東北大学, 工学研究科, 教授 (40261606)
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研究分担者 |
林 慶 東北大学, 工学研究科, 准教授 (70360625)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱電変換 / 格子熱伝導率 / 非整合構造 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
マンガンケイ化物MnSiγ (γ ~1.7) における優れた熱電特性を本研究代表者らが報告して以降、非整合複合結晶を対象とした熱電材料研究が加速している。非整合複合結晶は特有の変調構造を持ち、通常の固体では実現困難な高出力因子と低熱伝導率を両立しうるため、熱電発電材料として理想的な物質である。本計画では、研究代表者らのこれまでの先導的な研究を更に発展させ、種々のスケールで発現する非整合構造由来の微細組織を制御して理論最低熱伝導率を達成し、世界最高の熱電発電出力密度(1 kW/m2)を実現するための学理を究明することを目的としている。今年度は、最初に物質設計の基本となる第一原理計算による電子状態とフォノン物性の評価を行うとともに、種々の組成を有する単結晶試料の合成と、結晶構造や熱電特性測定を順次進める予定であった。 MnSiγに対して第一原理計算を行うために、まず3次元の対称性で表現可能な近似整合結晶構造を構築し、その電子状態およびフォノン物性の計算に着手した。しかし、後述の通り博士研究員の採用が叶わなかったので、大学院生RAと派遣社員を雇用して、機械学習を取り込んだ計算アルゴリズムを構築した。計算は、当初予定の半分程度まで終了している。 第一原理計算と並行して、種々の元素置換を施した単結晶試料の合成を試み、単相試料の微細組織を走査型電子顕微鏡を用いて観察するとともに、熱電特性の温度依存性測定および結晶方位依存性の評価を進めている。 博士研究員が2021年度4月中旬より着任することが決まったので、今後はフォノン計算を踏まえた物質設計を行い、試料合成・評価を加速する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度、8月から着任予定だった外国人博士研究員が、新型コロナウィルスの感染症に関する水際対策の強化に係る措置により、何度も入国時期が延期され、当該研究員によって遂行されるはずだった第一原理計算の進捗が大いに遅延した。このため、急遽大学院生をRAとして採用し、併せて第一原理計算に用いるコンピュータ言語に詳しい派遣社員を雇用して、電子状態およびフォノン物性計算を行った。電子状態計算は既に終了しており、その結果を用いてフォノン物性の評価を随時進めている。 物質合成においては、微細組織観察に適した大きさの試料を得るために、無置換MnSiγおよび遷移元素で部分置換した試料の単結晶育成を試みた。これまでの育成実験により、直径15 mm程度で外見上はクラックのない単結晶が再現性よく合成されている。単結晶試料を所定の結晶方位で切り出し、その試料の熱電特性の温度変化を調べたところ、無置換試料では、正方晶のa軸に平行または垂直方向よりも、それらの方向から30度程度離れた方位において、最大の熱電特性が得られることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的達成に不可欠な具体的課題として、(1) マンガンケイ化物のフォノン輸送第一原理計算、(2) 非整合ナノドメイン分裂の形成メカニズムの解明、(3) 微細組織と格子熱伝導率の相関の把握、(4) 不規則ドメインの形態制御による低熱伝導率化、(5) 発電モジュールの試作と発電特性評価、の5項目を遂行する計画であり、令和3年度は、半分程度終了した(1)に加え、項目(2)および(3)と(4)の前半までを遂行する。 項目(2)-(4)の具体的な計画は以下のとおりである。 まず最初に、MnサイトおよびSiサイトを部分置換した固溶相試料を合成し、高分解能電子顕微鏡(学内共通分析装置)によりナノレベルの微細組織を観察する。置換元素種による格子定数の変化やドメイン界面の歪みエネルギーを、分子動力学シミュレーション等により定量的に評価して、ドメイン分裂のメカニズムを解明する。また、種々の置換試料の熱伝導率と導電率の温度変化を測定し、格子熱伝導率を導出する。X線回折(XRD)パターンの特定ピークの形状を精査することにより、非整合ナノドメイン分裂組織の大要を捉えることができるので、ピークの半値幅や積分強度と微細組織とおよび格子熱伝導率の関係を調べ、相関を把握する。
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