研究課題/領域番号 |
20H00397
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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研究分担者 |
デニスロメロ ファビオ 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (10813537)
後藤 真人 京都大学, 化学研究所, 助教 (10813545)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 固体化学 / 遷移金属酸化物 / 機能性材料 / 高圧合成 |
研究実績の概要 |
本研究では、高圧法や低温トポタクティック物質変換を中心とした特異な合成手法を発展させ、準安定・非平衡な領域にまで合成範囲を広げることで新たな機能特性を有する新物質の合成を目指している。また、量子ビーム大型実験施設を使った実験による精密な構造解析により、構造変化と物性の相関を解明し、構造物性相関に基づく新物質開発指針を確立することも研究の目的としている。 今年度の研究で特に注目をしたのが、熱制御材料とイオン伝導材料である。熱制御材料では、高圧法で合成したAサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12が、室温近傍でサイト間電荷移動転移による1次相転移により大きな磁気エントロピーの変化が起こり、これに伴い巨大な潜熱が発生することを見出した。更に、この巨大な潜熱を圧力により取り出すことができる圧力熱量効果として制御可能なことを実証した。測定した圧力熱量効果は、これまでに無機固体材料で報告されている最高値に匹敵する大きなものである。近年、熱に関する諸問題が顕在化する中で、このように従来材料とは異なる新しい機構での熱制御を実証したことは 、基礎研究としてのみならず、社会からも強く求められている熱エネルギー問題の解決に資する新材料の開発に繋がるものである。 イオン伝導材料ではLiイオン含有逆ペロブスカイト構造物質に着目し、特異な2次元層状構造を有するRuddlesden-Popper相物質LiBr(Li2OHBr)2の合成に成功した。放射光X線を用いた詳細な結晶構造解析から、逆ペロブスカイト構造を構成する八面体にLiイオン欠損が生じ、この欠損サイトのホッピングによりLiイオンの2次元的な伝導が起こっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高圧法による新物質合成では従来よりも高圧力・高温度での合成が可能となる装置改良が進み、それにより、現在までにいくつかの興味深い物性を示す新物質を合成することに成功した。 熱特性制御に関する新物質開発では、高温高圧合成により得られた異常高原子価状態を含んだAサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12が、その異常高原子価状態の不安定性解消に起因するサイト間電荷移動相転移に伴い巨大な圧力熱量効果を示すことを実証した。この巨大熱量効果を引き起こすエントロピー変化は、中性子磁気構造解析から、磁気モーメントの変化を測定し、磁気エントロピーの寄与が大きいことを明らかにすることにも成功した。一連の結果から、異常高原子価イオンを含んだ酸化物は、電荷―スピン―格子が相関した相転移を示すことで、大きなエントロピー変化による熱制御材料として有用であるという材料設計指針を得ることができた。さらに、Aサイト秩序型ペロブスカイト構造鉄酸化物NdCu3Fe4O12のAサイトイオンを置換することで、相転移温度が変化することも実証した。これらは、熱量効果が最大となる温度域を制御できる可能性を示すものであり、機能材料設計の幅を広げる成果である。 イオン伝導材料では逆ペロブスカイト構造Liイオン含有材料に注目して幾つかのハロゲン化物イオンと組み合わせた新物質合成を試みてきたが、Brを含んだ材料でRuddlesden-Popper相2次元層状構造が安定化されることを見出した。放射光X線を用いた精密な結晶構造解析とイオン伝導特性の測定から、特異な2次元構造に起因するイオン伝導特性を明らかにすることができた。これらは構造次元性と伝導特性の相関を示す重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、高圧法や低温トポタクティック物質変換を中心とした特異な合成手法を駆使した新物質開発を発展させる。これらは準安定・非平衡な領域にまで合成範囲を広げる新物質探索の有用な手法である。また、本研究では、量子ビーム大型実験施設を使った実験による精密な結晶構造解析により、構造物性相関を解明することも目標としている。特に海外の大型実験施設での国際共同研究を積極的に活用する予定であったが、2020年度はコロナ感染症拡大の影響により、海外施設での実験に直接参加することはできなかった。予定していた実験の一部は、試料を送付して現地スタッフに測定を依頼することで行ってきた。2021年度は現地参加実験と試料送付実験を上手く連携させて研究を更に進展させる予定である。 新物質開発の注目点は、引き続き、熱制御材料とイオン伝導材料である。熱制御材料においては、異常高原子価イオンを含んだ遷移金属酸化物がその中心となる。Aサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物を中心に電荷―スピン―格子が相関した相転移を示す材料の物質合成とその熱量効果測定を進める。新規な注目点は、マルチ熱量効果である。複数の外場による熱制御の実証を目指す。イオン伝導材料では、引き続き、Liイオン伝導材料の開発と、イオン伝導と構造との相関の解明を目指す。さらに2021年度には、酸素イオン伝導物質の評価も本格的に開始する。特に、異常高原子価イオンを含んだ遷移金属酸化物では、イオン価数の変化に伴い酸素配位構造が変化する。この酸素配位構造の変化に伴う酸素イオンの拡散過程を解明することで、イオン伝導機構の理解へつなげる予定である。
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