本研究では、主として高圧法を中心とした特異な合成手法を発展させ、準安定・非平衡な領域にまで合成範囲を広げることで新たな機能特性を有する新物質の合成を目指してきた。また、量子ビーム大型施設を使った実験による精密な結晶構造解析により、構造変化と物性の相関を解明し、構造物性相関に基づく新物質開発指針を確立することも研究の目的としてきた。 これまでに高圧法で合成したAサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物NdCu3Fe4O12での巨大な圧力熱量効果、およびBiCu3Cr4O12でのマルチ熱量効果(圧力熱量効果と磁気熱量効果)を発見してきた。この両者における大きな熱量効果の発現は、電荷‐スピン‐格子が強く相関した物質系において起こる1次の電荷転移が誘発する磁気エントロピー変化に起因するものであると考えている。特に磁性イオンの磁気モーメントの温度変化をみると、通常の磁気相互作用に基づく2次の相転移とは大きく異なる特異な1次転移を示していることが明らかとなった。これは、本質的には高い磁気転移温度を内在しているにも関わらず、電荷転移により磁気転移が抑制されており、結果的に電荷転移によって磁気転移が誘起されることを示している。このような電荷転移により誘発される磁気転移はこれまでには観測されていな特異なものである。熱量効果を示す新材料の設計にあたり、この新たなメカニズムはその設計指針ともなるものであり、高効率な熱制御を通して環境・エネルギー問題の解決にも資する重要な成果である。 高圧合成法を用いた新物質開発ではペロブスカイト構造のAサイトが磁性イオンを含む材料系に注目した合成と物性評価研究を行ってきたが、CaCO3Ti4O12では直交する3つのスピン副格子からなる複雑で特異な磁気構造を明らかにした。
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