研究課題
本研究では、太陽光を用いたクリーンな水素製造技術として期待される「半導体光触媒を用いた水分解」の飛躍的な高効率化を実現しうる新奇半導体材料の発掘を目的とし、我々が最近見出した高活性層状酸ハロゲン化物光触媒を基点として、理論計算と時間分解マイクロ波伝導度キャリアダイナミクス解析を主軸とする「高速光触媒探索メソッド」を開発し、可視光照射下で高効率に水を分解できる革新的な光触媒体を開発することを目的としている。今年度は以下の成果が得られた。これまでペロブスカイト層が4層以上の層状酸ハロゲン化物の合成例はほとんど無かったが、新規に開発した「レンガ積み合成法」により、3-5層の系統的な合成に成功し、ペロブスカイト層の増加とともに光触媒活性が向上することを見出した。DFT計算から、伝導帯下端と価電子帯上端の状態密度がシレン層とペロブスカイト層内層へと空間的に分離されることで、励起電子と正孔の再結合が抑制されることが強く示唆された。さらに、シレン系Bi2MO4Cl(M=Bi, La, Y)では、Mの種類により伝導帯下端位置が大きく変化するのみならず、結晶構造変化に伴う光キャリア導電特性の大きな変化がTRMC測定からも確認され、Bi2YM4Clが際だって高い光触媒活性を示すことを見出した。また、量子化学計算から計算される有効質量は光触媒の性能に影響すると予想されるが、これまで実験的にその関係を実証した例はなかった。本研究では、Pb-Bi-O-ClとSb-Bi-O-Cl半導体のSr/Pb比を任意に変化させた固溶体において、TRMC法で得られる過渡伝導度信号と電荷キャリア有効質量が相関することを見出し、さらに光触媒能を含めた3者の相関が成り立つことを初めて実証することで、光触媒開発においても量子化学計算や機械学習によるアプローチが極めて有効であることを示した。
3: やや遅れている
本研究計画では、京都大学の阿部Gおよび陰山Gにおいて合成した光触媒の候補材料を、大阪大学の佐伯GにおいてTRMC測定を行い、その結果を合成条件の最適化および新規材料の開発指針へフィードバックすることを骨子としていたが、コロナ禍において、両大学間の往来が限定的となり、限られた回数しか測定を実施できなかったため、当初より遅れを生じている。
令和2年度における進展の遅れを取り戻すべく、以下の2点に特に注力して研究を推進する。1.理論計算およびマテリアルズ・インフォマティクスによるターゲット材料群の選定:マーデルングポテンシャル(MP)解析のさらなる高速化と精度向上のためのプログラム開発も進め、さらに選定された有望な化合物についてはDFT計算をさらに拡充し、バンド構造のみならず、キャリアの有効質量などの基礎物性を予測することで、指導原理を深化させ、これらに基づく有力半導体材料の選定手法を確立する。さらに、機械学習モデルの光触媒材料開発に適用し、光触媒材料の結晶構造・構成原子・組成比・バンドギャップ・電位などの基礎物性と焼結温度・バッファー・粒径・キャリアダイナミクスなどの諸条件を入力とし、光触媒能を出力とする機械学習モデルを構築する。2.高速キャリアダイナミクス解析による有望材料の絞り込み:これまでに時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)法を用いて、光触媒反応における光吸収による励起キャリア生成、および励起キャリアの分離・移動・再結合、を迅速に評価可能であり、有望な光触媒材料を迅速に絞り込めること、さらには最適な調製条件の予測も可能であることを見出している。令和3年度は、阿部グループと陰山グループで合成される多種の粉末試料を佐伯グループにてTRMC測定し、有望材料のさらなる絞り込みを行う。この際、励起波長・励起密度・温度・マイクロ波周波数などの測定パラメータを変化させて光触媒反応に関係する様々な基礎物性を直接評価し、光触媒の基礎科学を確立するとともに、材料選定の高効率化と高精度化を図る。京都大学と大阪大学の間での効率的な研究実施を実現するために、試料を送付して、オンラインで状況を共有しながら測定を実施するなどの手法も確立し、効率的な研究実施に努める。
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