研究課題/領域番号 |
20H00399
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
坂口 裕樹 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (00202086)
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研究分担者 |
薄井 洋行 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (60423240)
道見 康弘 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50576717)
西川 慶 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主任研究員 (30457824)
後藤 和馬 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20385975)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リチウム二次電池 / ケイ素系負極 / リンドープ / シリサイド / イオン液体電解液 / 軟X線発光分光法 |
研究実績の概要 |
これまでにSiにリン (P)をドープするとサイクル寿命が向上することを報告してきた.Si系負極の劣化要因の一つとして,Li吸蔵の際に形成される様々なLi-Si合金相のうちLi濃度が高く膨張率の大きなLi-rich相が不均質に分布することが挙げられる.これによりSi層内の局所でひずみが蓄積されクラックが生じ,やがて電極崩壊に至ると考えられている.このようなLi-rich相の不均質な分布によるSi負極の劣化はこれまで推測の域を出なかったが,当グループでは軟X線発光分光法に基づきSi層内のLi濃度分布を解明する手法を考案し,電解液の違いがLi濃度分布におよぼす影響およびサイクル寿命との関係性を明らかにしてきた.2020年度は上記の手法に基づきPドープがLi濃度分布におよぼす影響を調べた.その結果,Pドープにより長いサイクルにわたりLi-rich相の生成が抑えられLi比率の低いLi-poor相が均質に維持されていることがわかった. リチウム二次電池用NiSi2電極の反応メカニズムを調べた.固体核磁気共鳴分光法によりNiSi2上においてLi析出は起きていないことを明らかにした.また,粉末X線回折,ラマン分光法および透過型電子顕微鏡の結果からNiSi2はSiとNiあるいはSi-poorなNi-Si相には分相していないことがわかった.さらに,詳細な解析を進めたところ,NiSi2自身がLiを吸蔵-放出している可能性が極めて高いことが示唆された.これまでに別途異なる金属ケイ化物 (FeSi2)を用いて同様に反応メカニズムを調べてきた.NiSi2とほぼ同様のメカニズムで充放電反応が進行するが,NiSi2中におけるLiの化学的環境はFeSi2のそれとは僅かに異なる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PドープによりSi電極のサイクル寿命が向上するメカニズム解明については当初の予定通り実施できた.P濃度の違いがサイクル寿命やSi層中のLi濃度分布におよぼす影響についても軟X線発光分光法により調べる予定であったが,新型コロナウィルスの影響により当該装置を所有している外部機関へ出張できなくなってしまったため調べられなかった. これまでにLaSi2/Siコンポジット電極がSi単独電極よりも優れたサイクル性能を示すことを報告してきた.また,Siとコンポジット化させる物質にはSiからの応力を緩和できる機械的性質,高い電子伝導性,適度なLi貯蔵能および高い熱力学的安定性,の4つの性質が求められることも明らかにしてきた.LaSi2/Si電極の透過型電子顕微鏡観察の結果,サイクル前ではLaSi2マトリックス相中にSi相が微分散している組織が形成されていたことから,弾性的なLaSi2がSiからの応力を緩和し電極崩壊を抑制したと考えられる.しかしながら,サイクル後では膨張したSi相中にLaSi2相が微分散した組織が形成され両相の位置関係が逆転していることを明らかにしてきた.一方で,金属ケイ化物 (シリサイド)相がSiマトリックス相中に微分散している組織とした場合には,剛性的なシリサイドを用いるとサイクル性能が向上することを見出している.これらのことから,LaSi2/Si中に剛性的なシリサイドが混在しているとサイクル性能がさらに改善できると着想した.今年度は弾性的なLaSi2と剛性的なシリサイドからなるコンポジット試料の合成に成功した. このように研究を進める中で若干の計画変更があったものの,全体として滞りなく進んでいるので「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度合成した機能の異なる2種類のシリサイドを含むSi系電極のリチウム二次電池負極特性を調べる.電子顕微鏡観察による組織変化の解明および軟X線発光分光法による反応部位の分布の把握にも努める.シリサイドの種類やそれぞれの比率を変えた評価を実施するとともに,別の種類のシリサイドをさらに添加した時の効果も調べる. SiはLiを吸蔵すると異方的に膨張することが電子顕微鏡等により明らかにされてきた.異方的な膨張は粒子内部の局所に応力を発生させ電極崩壊の要因となってしまうため,等方的な膨張が望まれる.しかしながら,これまでに膨張の異方性および等方性を定量的に評価した報告例は皆無であった.当該研究では1粒子に対して充放電試験と光学顕微鏡観察を同時に行える単粒子測定システムに着目し,これを利用すれば膨張の異方性を定量化できると着想した.種々のSi系活物質 (不純物元素ドープSi,シリサイド,シリサイド/Siコンポジット)に関して膨張の異方性・等方性を調べる. シリサイド (MSix)の構成元素Mが同じでも組成xが異なる相があるので(例:FeSi2, FeSi, およびFe3Si),Siの割合の違いが電極特性におよぼす影響を明らかにする.ケイ化物のLi吸蔵-放出機構はまだ十分に解明されていないので,電子エネルギー損失分光法や薄膜X線回折などにより詳細な反応機構の解明に努める.
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