研究課題/領域番号 |
20H00405
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松森 信明 九州大学, 理学研究院, 教授 (50314357)
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研究分担者 |
老木 成稔 福井大学, 高エネルギー医学研究センター, 特命教授 (10185176)
岩本 真幸 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40452122)
木下 祥尚 九州大学, 理学研究院, 助教 (40529517)
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脂質 / 膜タンパク質 / ケミカルバイオロジー / 表面プラズモン共鳴 / KcsA / バクテリオロドプシン |
研究実績の概要 |
「生物はなぜ多様な脂質を有するのか?」という根源的な問いに対する一つの答えとして、膜タンパク質の構造や機能を制御するために多様な脂質が必要である、との仮説が成り立つ。一方で、脂質-膜タンパク質間相互作用解析の方法論が欠如しているため、この分野の研究は立ち遅れている。そこで本研究では、松森らが脂質膜研究で開発した分析手法を集約化することで脂質-膜タンパク質間相互作用解析のプラットフォームを構築し、脂質機能および脂質多様性の解明を目指す。 我々はすでに表面プラズモン共鳴(SPR)センサーチップの金基盤表面を自己組織化単分子膜で修飾することで膜タンパク質を高密度に固定化することに成功し、膜タンパク質に特異的に結合する脂質の分析を可能にした。これを放線菌由来のカリウムチャネルKcsAに本手法を適用し、カルジオリピンが特異的に結合するとともにチャネル開口を促進することを見出した。さらに分担者の老木、岩本教授らと共同で変異実験を行い、カルジオリピンの結合部位を特定するとともに、分子動力学シミュレーションを行い、カルジオリピンによるKcsA活性化機構を明らかにした。令和4年度にはこれに関する論文を一報投稿し、さらにもう一報の投稿を準備している。 一方、SPRを用いた相互作用解析方法では特異的脂質を見つけるために精製した脂質を分析する必要がある。この欠点を補うために、金ナノ粒子をSAMで修飾し、これに膜タンパク質を固定化することで、脂質混合物から膜タンパク質特異的脂質を簡便に取得する手法を発案した。本年度はバクテリオロドプシン(bR)を用いて本アイデアの検証に成功し、現在論文投稿準備中である。さらに、金ナノ粒子は強い赤色を呈することから、PVDF膜に付着させた脂質をこの膜タンパク質固定金ナノ粒子で染色することで、特異的脂質をより簡便に検出する手法の開発も開始し、おおむねこれを達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カリウムチャネルKcsAと脂質の相互作用に関して、カルジオリピンが脂質膜の外葉に存在するだけでチャネル活性が亢進することを明らかにした。これまでKcsAが内葉の脂質と相互作用することは報告されていたが、外葉の特異的脂質と相互作用しチャネル活性を亢進するという新発見に至った。さらにKcsAに変異を導入することで、カルジオリピンの相互作用部位を特定することができた。この結果をもとに分子動力学シミュレーションを行い、カルジオリピンの作用機構まで迫ることができた。このように、KcsAの特異的脂質の同定、その機能解析、さらに計算による裏付け、までの一連の研究が完成し、論文投稿に至った。 また金ナノ粒子を用いた膜タンパク質特異的脂質の取得に関しても、方法論として完成させることができ、脂質混合物からの特異的脂質の同定が簡便化が達成できた。本手法の確立は本申請の成否を分けることから、申請課題達成の目途が立ったと言える。さらにこの派生法として、金ナノ粒子の赤色を利用した新たな脂質検出法の開発にもほぼ成功した。本手法は膜タンパク質に結合する薬剤の探索にも応用でき、本方法論は大きな波及効果が期待できる。 一方で、特異的脂質とタンパク質の共結晶作成に関しては思うように進捗しなかった。クライオ電子顕微鏡の適用も含めて検討を加速する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
金ナノ粒子を用いた方法論をカリウムチャネルKcsAやアクアポリンなどその他の膜タンパク質に適用していく。上述のようにKcsAではカルジオリピンが特異的脂質であることを明らかにしたが、これは購入した人工的なカルジオリピンを用いた検討であり、アシル鎖の長さや二重結合の数によって親和性が変わる可能性がある。そこで、金ナノ粒子にKcsAを固定化し、KcsA生産菌である放線菌の脂質抽出液を作用させ、放線菌膜で実際にKcsAと相互作用しているカルジオリピンの探索を行う。また、取得した脂質によるKcsAの活性化も検討する。さらに本手法を用いた膜タンパク質結合薬剤の探索も本格化する。 また特異的脂質と膜タンパク質の複合体構造の知見を得る。近年のクライオ電子顕微鏡の発展により、脂質と膜タンパク質の相互作用を解析できる可能性が高まっている。実際、分担者の神田教授の研究室でこの測定が可能となっている。そこで、今後はクライオ電子顕微鏡での検討を急ぐ。
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