研究課題
研究代表者は、ソルガムのD遺伝子(転写因子をコードし、茎のプログラム細胞死を誘導する)のイネホモログの機能を探究する過程で、茎から穂への貯蔵炭水化物の再移動や根の通気組織形成が、この遺伝子によって制御されていることに気づいた。これまでもプログラム細胞死が形態形成に果たす役割は多くの研究者によって明らかにされてきたが、作物の生理生態的特性の一部も、ある共通したプログラム細胞死のプロセスによって包括的に制御されている可能性がある。そこで本研究では、イネのD遺伝子によって制御されるプログラム細胞死のプロセスの詳細の解明や、収量性や耐湿性といったイネの生理生態におけるプログラム細胞死の役割の特定を目指す。本年度においては、まず、イネに存在する複数のD遺伝子ホモログの具体的な機能を解明すべく、各器官におけるそれらの発現パターンの特定に着手した。その結果、大半のイネD遺伝子ホモログが根で高発現しており、その発現の上昇と通気組織の形成が相関していることが判明した。さらに、根の通気組織形成に影響を及ぼすことが報告されている、幾つかの植物ホルモンの合成・作用阻害剤処理が、イネD遺伝子ホモログの発現に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。また、イネD遺伝子ホモログについて、ゲノム編集によるそれらの機能欠損系統を作成し、根の表現型を精査したところ、その通気組織形成に異常が生じることが明らかとなった。これらの結果は、イネの根の通気組織形成の誘導において、D遺伝子のホモログが中心的な役割を担っている可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
前述の通り、本年度においては、イネのD遺伝子ホモログの発現パターンとその機能欠損系統における表現型の特定に取り組んだ。機能欠損変異体に導入した変異の安定化というこれまでの懸案が解決したこともあり、これらの項目については大変順調に解析が進み、イネのD遺伝子ホモログが根の通気組織形成の誘導において必須の役割を担うことを実証するとともに、その発現調節メカニズムの一端を明らかにすることができた。しかし、一方で、登熟期の茎の再移動に機能する、イネD遺伝子を中心とした遺伝子ネットワークを同定するための遺伝解析については、稈の非構造性炭水化物の蓄積量に関連するQTLがいくつか得られたものの、形質評価の対象とした一部の個体に原因の特定が困難な発育不良が発生したため、遺伝解析に使用する研究試料の再調整を行った上で、その再現性を精査する予定である。
本年度までの研究成果から、イネのD遺伝子ホモログが根の通気組織形成の誘導において必須の役割を担うことが明らかとなった。しかし、イネの根の通気組織形成におけるD遺伝子の具体的な機能や、それを中心とした遺伝子ネットワークには不明な点が残されている。そこで、今後は、まず、野生型と機能欠損系統とのトランスクリプトームの比較解析や、イネD遺伝子ホモログの発現量を指標とした遺伝解析を通じて、その上流や下流で機能する遺伝子群を網羅的に同定し、それらの機能やD遺伝子とのエピスタシスの詳細を検証する。また、登熟期の稈における炭水化物の再移動に機能する、イネD遺伝子を中心とした遺伝子ネットワークの解明を目指し、稈の柔細胞の炭水化物の残留程度に加え、稈の細胞壁成分の含有量や稈の解剖学的形質を指標としたQTL解析を実施する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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