研究課題/領域番号 |
20H00420
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
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研究分担者 |
亀井 謙一郎 京都大学, 高等研究院, 准教授 (00588262)
金子 武人 岩手大学, 理工学部, 准教授 (30332878)
福田 智一 岩手大学, 理工学部, 教授 (40321640)
大沼 学 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (50442695)
木下 こづえ 京都大学, 野生動物研究センター, 助教 (50724233)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / ゲノム / iPS細胞 / 生殖細胞 / 加齢 |
研究実績の概要 |
本研究では、国内の希少高次捕食者のツシマヤマネコ、ニホンイヌワシにおいて、繁殖の成否に関わる要因を司る分子基盤を、ゲノム、細胞、生殖機能など多階層縦断的な解析によって明らかにする。具体的には1)繁殖機能に関わる遺伝子の同定、2)iPS細胞および始原生殖細胞の作製法の確立、3)加齢やストレスによる繁殖機能低下の原因解明、を相互補完的に実施し、得られる情報に基づいて、飼育施設に有効な繁殖促進戦略を提案する。 1)では、イヌワシおよびヤマネコのゲノム配列情報を、ロングリード解析やメイトペアのデータの追加により、精度を高めた。全国のイヌワシを飼育している動物園より、繁殖状況に関する情報を収集し、繁殖に成功または失敗した個体の抽出を行った。さらにゲノム情報が取得されていない2個体の全ゲノム解析を実施した。 2)では、ツシマヤマネコの皮膚由来細胞から、薬剤誘導性の変異型サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)遺伝子、サイクリンD1を発現する無限分裂細胞を作製した。アマミノクロウサギ およびケナガネズミの死亡個体の筋肉から、合計10個体の初代培養細胞を樹立した。ニホンイヌワシiPS細胞の培養条件を検討し、ヒト多能性幹細胞用の未分化維持用合成培養液が使用できる可能性が示唆された。また始原生殖細胞分化への条件検討も試みた。 3)では、モデル動物のネコを用いてDNAメチル化を指標とした年齢推定を行い、健康状態(腎臓疾患)と推定年齢の関係を調べた。またツシマヤマネコの野生由来個体の糞のDNAを抽出した。糞を用いてストレスのバイオマーカーとしてコルチゾール濃度を測定し、主に繁殖状態の違いによる生理的ストレス変化を調べた。ツシマヤマネコの死亡個体から摘出した精巣組織から、精子を回収し凍結保存を実施した。高齢個体からの精子採取にも成功し、凍結精子の受精能試験を実施した結果、核形成可能な受精能を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ予定通りに進行し、論文や学会発表も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1)では、SNPマーカーを用いて、ペア形成や繁殖の成功に重要な役割を果たしていると考えられるゲノム領域を特定する。特定されたゲノム領域の配列を最初に整備したドラフト配列から抽出する。この配列を活用して、タンパク質として機能していると予想される領域(Open Reading Frame、ORF)を特定する。特定されたORFについてニワトリゲノムとの相同性検索等によってORFの機能を推定する。特に繁殖との関連が考えられる遺伝子(精子形成、MHC、感覚等)を中心に解析を進める。 2)では、作成したiPS細胞の機能評価には、長期培養後における増殖能・分化能・核型解析を行う。さらに分化誘導因子を作製して、始原生殖細胞分化誘導における最適条件を同定する。 3)では、昨年度に引き続き年齢推定を行い、加齢およびストレスと繁殖機能低下の関係について解明する。また年齢推定を行う個体の糞を用いてストレスのバイオマーカーとして知られているコルチゾール濃度を測定し、加齢やストレスが繁殖機能低下に与える影響について調べる。生殖細胞については、イエネコやニワトリをモデル動物として用い、老齢個体にも有用な生殖細胞の保存法・生殖細胞の機能解析法の技術開発を行う。モデル動物で開発した年齢推定や生殖細胞保存の技術を、野生由来の飼育個体へ応用する。
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