研究課題/領域番号 |
20H00430
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
吉崎 悟朗 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70281003)
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研究分担者 |
坂本 崇 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40313390)
矢澤 良輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (70625863)
壁谷 尚樹 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (90758731)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生殖細胞移植 / 代理親魚 / ニベ / 凍結保存 |
研究実績の概要 |
海産魚の養殖の歴史は、他の農産物、畜産物生産の歴史と比べると極端に短いため、その育種は極めて限定的である。一方、近年の分子マーカーを用いた手法の導入により、水産分野においても高成長や耐病性といった形質に注目した育種はすでに着手されている。しかし、養殖魚の可食部の食味や化学成分といった、その評価が侵襲的になされる形質に着目した育種はほとんど着手されていない。いうまでもなく対象個体の評価に伴い、その個体を屠殺する必要が生じるため、これらの個体の次世代を生産できないことがその大きな理由である。ゲノム情報を駆使して集団選抜を行うことも理論的には可能ではあるが、これには多大なスペースと労力、コストを必要とする。さらに、親世代の集団にエリート個体が含まれていなかった場合、その効果は限定的である。本申請では、大量の親世代をまず食味試験や可食部の成分分析に供することにより、真のエリート個体を選抜することを目指している。具体的には可食部のサンプリングの際に未熟な生殖細胞を単離・凍結することで、エリート個体を同定した後に、これらの凍結生殖細胞を代理親魚へと移植することで、エリート個体に由来する卵、精子を生産する。したがって、これら配偶子の人工授精により、エリート個体=おいしい魚に由来する次世代を効率的に作出することが可能になる。現在までに、野生魚の採捕と予備飼育が終了し、これらの個体の生殖腺凍結が完了している。また粗脂肪含量と脂肪酸組成の分析が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マサバおよびニベの精巣凍結保存条件を検討した結果、両種ともに9.24%DMSO, 10%鶏卵黄, 0.1Mトレハロースを含むL-15培地を凍結溶液として用い、氷上で60分の平衡化を行った後に、これら組織を収容したクライオチューブをバイセル(日本フリーザー)内に収納した状態で―80℃に90分収容することで緩慢凍結を行った。その後、クライオチューブを液体窒素内で保管することで高効率で生殖細胞の凍結保存が可能であった。なお、解凍にはクライオチューブを20度のウォーターバスに浸漬する方法を用いた。 本年度は約100匹のニベを釣りにより採集した(Covid-19の感染拡大防止による県境を越える移動制限や学生単独での出張制限により採集尾数が予定よりは少なかったが、状況の改善が見込めないため、この親魚集団で以降の実験を進めることとした)。これらの個体は粗脂肪含量が低い餌であるマスの育成用配合飼料で同一水槽内で最低7か月間予備飼育を行った。これらの集団から極端に体サイズが大きな個体および小さな個体を除き、得られたニベ集団から生殖腺を単離し、これらの凍結を上記の方法に従って進めた。なお、この際には背側体側筋を同時にサンプリングし、粗脂肪含量と脂肪酸組成の分析に供した。粗脂肪含量の分析にはFolch法を用い、脂肪酸組成の分析には近年研究代表者と分担者の壁谷が改良した方法を用いた。 また、ニベ生殖細胞を移植するための不妊化宿主の調整をdnd遺伝子のノックアウトにより進めている。現在までにF1のヘテロ個体を養成中であり、次年度にはF1同志を交配することでF2世代においてホモと予想される個体を作出可能な状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上述の粗脂肪含量と脂肪酸組成の解析を完了させ、それぞれ上位3個体、下位3個体を選別し、これらの生殖細胞を解凍し、宿主個体へと移植することを目指す。なお、これらの宿主には初年度に作出したdnd変異個体を用いていくことを計画している。したがって、移植実験を行う前にF2世代のホモ変異個体を特定し、これらの個体の生殖細胞の有無を組織学的手法、vasa抗体を用いた免疫組織学的手法、さらにはRT-PCRを用いた分子生物学的手法を駆使することで明らかにしていく。もし、予想通りの生殖細胞欠損宿主が得られない場合は、従来法に従って三倍体ニベを宿主に用いて移植実験を進める予定である。
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