研究課題
着床後、発育する胚は近遠位軸や前後軸を形成しながら、外胚葉、中胚葉、内胚葉へと分化していく原腸胚の三胚葉形成へと進む。選択的スプライシングは、限られた遺伝子やpre-mRNAから膨大な転写産物を作り出し、生物に多様性をもたらす機構である。原腸胚形成においても選択的スプラシングは極めて重要なイベントであることが推測されている。選択的スプライシングにはRNA結合タンパク質(RBP)を含むスプライシング関連タンパク(SRP)の集合体であるスプライセオソームが必要である。原腸胚での遺伝子発現とノックアウト(KO)マウス表現形質を解析した著者らの結果において、胚性致死を示す30%がSRP-KOマウスであり、選択的スプライシングが重要であることが明らかとなった。一方、胚葉形成における選択的スプライシングバリアントの具体的な機能は不明である。そこで本年は、①胚葉可視化(MIERU)マウスの遺伝的背景において原腸胚で必要不可欠と思われるRBPを含むSRP遺伝子を破壊したSRP-KO MIERUマウス胚性幹細胞(ES細胞)作製を継続し、マウスリソースの増加を推進させた。②テトラプロド法による胚発生・FACSによる各種胚葉細胞の分取・ロングリードトランスクリプトーム解析が特徴的なスプライシングバリアントと表現型を紐図けることが可能であるか、スプライセオソームの集合に関わるSerine threonine kinase receptor-associated protein(Strap)-KO MIERUマウスの作製と解析を推し進めた。③更に、多様なタンパクと相互作用し、SRPとの相互作用も疑われているCables2について遺伝子破壊により原腸胚致死を示すことより、Cables2-KOにおける原腸胚での胚性致死発症機構を併せて解析した。
2: おおむね順調に進展している
①RBPを含むSRPノックアウト(KO)胚葉形成可視化マウスの開発現在までにCd2bp2(CD2 cytoplasmic tail binding protein 2)、Pcbp2(poly(rC) binding protein 2)、Qki(Quaking)、Rpl22l1(Ribosomal protein L22 like 1)、Strap、Tra2b(transformer 2 beta)、Trim71( Tripartite motif-containing 71)、Ubr5(ubiquitin protein ligase E3 component n-recognin 5)、Ybx1(Y box protein 1)遺伝子を標的にCRISPR/Cas9システムによるSRP-KO MIERUマウスES細胞作製が完了し、マウスリソース作製が順調に進んでいる。②Strap-KOマウス胚作製・FACS細胞分取・トランスクリプトーム解析Strap-KOマウスES細胞はテトラプロイド化した野生型桑実胚と凝集キメラを作製し、その胚発生を観察した。結果、再現性ある発生異常が観察された。FACSによる胚葉の分画・分取も可能であることが確認された。一方、MinIONを用いてのロングリードトランスクリプトーム解析では一部の胚葉特異的なスプライシングバリアントが未検出であり、更に条件の最適化を図る必要性があることが明らかとなった。③Cables2遺伝子破壊による胚性致死発症機構の解明Cables2-KOマウス及びES細胞の解析により、Cables2ゲノム欠失は隣接するRps21(Ribosomal protein S21)遺伝子発現減少を引き起こさせ、それが細胞周期関連分子の異常な発現動態を誘導し、原腸胚を胚性致死させていることが明らかとなった。
①SRP-KO胚葉形成可視化マウスの開発と解析前年度と同様に、原腸胚期の三胚葉形成の可視化と各胚葉の細胞分取のため、各々の胚葉を蛍光で識別可能なMIERUマウス(外胚葉マーカーとしてOtx2遺伝子にtdTomatoが、中胚葉マーカーとしてT遺伝子にTagBFPが、内胚葉マーカーとしてSox17遺伝子にEGFPがそれぞれbicistronicに内在性標的遺伝子を生かしたままノックインされている)ES細胞においてCRISPR/Cas9システムによる標的SRP遺伝子機能欠失を行い、SRP-KOマウスライブラリーを更に増やす。各SRP-KO MIERUマウスES細胞はテトラプロイド凝集キメラ法にて原腸胚まで発生させ、胚葉形成の形態学的評価を推進させる。②胚葉特異的なトランスクリプトーム解析とデータソース構築スプライスバリアントを評価する上で、MinIONによるロングリードシークエンスは大きな力を発揮するが、欠点も見られた。そこで本年度は、ゲノムワイドな遺伝子発現評価に実績があるショートリードRNA-seqを先に実施する。その後、スプライスバリアントに差が見られる遺伝子に着目し、ナノポアーシークエンシングMinIONを用いてロングリードトランスクリプトーム解析を実施、詳細なデータを得る。これらのデータをもとにGene Ontology(GO)解析を併せ実施し、SRP-KO異常胚葉形成の特徴と原因候補スプライシングバリアントを炙り出す。③異常な胚葉形成表現型とスプライシングバリアントが紐づけられた場合は、in vivoにおける解析を開始する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
eLife
巻: 10 ページ: e50346
10.7554/eLife.50346
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20210512140000.html
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