研究課題/領域番号 |
20H00446
|
研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
国枝 哲夫 岡山理科大学, 獣医学部, 教授 (80178011)
|
研究分担者 |
佐々木 慎二 琉球大学, 農学部, 准教授 (10365439)
揖斐 隆之 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (70335305)
辻 岳人 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (90314682)
桃沢 幸秀 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (40708583)
藤原 靖浩 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (50793064)
大月 純子 岡山大学, 生殖補助医療技術教育研究センター, 准教授 (00573031)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 近交退化 / 黒毛和種 / 在来馬 |
研究実績の概要 |
野間馬の全個体について家系情報を収集し、それらに基づいて各個体の近交係数を調べた結果、野間馬集団の過去46年間の平均近交係数は0.195であり、また平均近交係数は1986年以降漸次上昇していることが明らかになり、近交化が進行していることが確認された。また、野間馬集団中の多くの個体のDNAを用いて、DNAマイクロアレイにより全ゲノムを網羅した約7万の一塩基多型(SNPs)のタイピングを行うと共に、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)のハプロタイプのタイピングを行った。その結果、SNPs のタイピング結果より求めた野間馬集団の平均近交係数は0.15であり、家系情報より求めた平均近交係数より若干低いもののやはり高い傾向を示した。さらにMHCクラスII領域の10遺伝子座のタイピングを行ったところ、野間馬の集団中には4ハプロタイプしか存在しないことが明らかになった。これらの結果から、当初の予想通り、野間馬の集団の近交化はかなり進行していることが確認された。また、現在飼育されている野間馬の全個体について、臨床診断、血液検査等により異常の詳細な調査も実施している。 これまでに世界各国から収集したウマのDNAサンプルを用いて、PRDM9遺伝子の塩基配列を解析した結果、これら動物種においても他の動物種と同様に極めて多様性が高いことが確認された。またヒトにおいても日本人の集団中においてPRDM9遺伝子のZinc-Finger Domainの多様性は高く多くのハプロタイプが存在することが確認された。 さらに、黒毛和種の集団で発生が報告された、特徴的な症状を呈して生後間もなく死亡する疾患の発症個体について、家系の調査と共に広く全ゲノムの塩基配列の解析を行ったところ、特定の遺伝子を含むゲノム広い領域における欠失が確認され、近交化にともなうゲノムの不安定化がその原因である可能性も示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に記載されている、野間馬における臨床診断、血液検査等の詳細な調査、家系情報からの集団の近交化の推測と集団内の各個体間の近縁度の評価、DNAマイクロアレイを用いた、全ゲノムの一塩基多型(SNPs)のタイピングによる野間馬集団の遺伝的な特徴の解明、ウマにおけるPRDM9遺伝子中の分子多様性の解明、および日本人の集団におけるPRDM9の多様性の解明等の多くの研究課題において、当初計画通りに研究は進捗している。 PRDM9遺伝子をウマあるいはウシのタイプに置き換えたノックインマウス作成の準備等、一部今年度の研究において当初予定の計画に遅れの見られる課題もあるが、逆にいくつかの課題において当初計画にない成果も挙げている。例えば、野間馬集団のMHCクラスII領域における詳細な解析についても新たに実施し、現存する大部分の個体についてクラスII領域のハプロタイプを明らかにし、その結果、野間馬の集団には4ハプロタイプしか存在しないことを明らかにしている。また、黒毛和種において致死性の遺伝性疾患に関わる可能性のあるゲノム上の欠失領域を明らかにしている。したがって、全体としては概ね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は上記のこれまでの成果を踏まえて下記の研究計画を実施する。ウマについてはこれまでに野間馬の大多数の個体についてSNPsのタイピングを終了していることから、それらのデータと家系情報から、集団内の各個体間の近縁度を明らかすると共に、各個体において相同染色体が同一の祖先に由来してホモ化している領域を特定することで、劣性致死遺伝子が存在している可能性のあるゲノム領域を推定する。また、前年度に引き続きPRDM9遺伝子中のZinc-Finger Domain の塩基配列を解析しウマの集団におけるその多様性を明らかにする。ウマ主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)については、全塩基配列はまだ明らかとされていないことから、クラスI、クラスII領域を含めたその全塩基配列を解明するためにターゲットキャプチャーアレイを作成し、次世代シーケンサーにより塩基配列を決定する。 黒毛和種については、特定の集団の全ゲノムの塩基配列の網羅的な解析を行い、得られた情報を用いてゲノム中に存在するナンセンス変異やフレームシフト変異等の遺伝子の機能を欠損させる有害突然変異の網羅的に同定することを試みる。次にそれら変異の集団中での頻度を明らかにすると共に、集団内の各個体においてそれらの変異と、受胎率等の繁殖性に関わる形質との関連について比較することで、これらの変異の各種繁殖形質に対する影響についても明らかにすることを試みる。また、PRDM9の多様性についても当初予定通り黒毛和種を対象として網羅的に多様性の解析を行う。ヒトについては、前年度引き続き女性および男性不妊患者のサンプルを用いて、PRDM9遺伝子等の減数分裂関連遺伝子における変異の網羅的解析を行い、不妊の原因となる可能性ある変異の同定を試みる。
|