研究課題/領域番号 |
20H00448
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
廣瀬 哲郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (30273220)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RNA / 超分子複合体 / 核構造・機能 / 細胞小器官 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、NEAT1 lncRNAを骨格に相分離形成されるパラスペックル構造体をモデルにして、相分離構造体の構築機構、相分離構造体の作動機構、新規arcRNAの探索を進めている。本年度は、昨年度明らかにしたNEAT1ブロック共重合体によるミセル化を介したパラスペックル構造体の形成機構(Yamazaki et al., EMBO J 2021)について、特にパラスペックルの特徴的な二層構造の形成機構を担うタンパク質因子の同定を目指した。これまでパラスペックル二層構造の親水性シェルの形成を担うNEAT1領域を欠失した変異体RNAにMS2 RNAタグ配列を組み込み、そこに特定のタンパク質を係留した際にシェル構造が形成されるものを探索した。その結果、核内の代表的なRNA結合タンパク質の一種がこの機能を担っていることを明らかにした。さらにCLIPデータからこの因子がNEAT1のシェル形成領域に結合していることを確認した。相分離構造体の作用機構については、パラスペックルの近傍に位置しているクロマチン座位の中からモデルとなる遺伝子座位として核内fociとしてRNA転写物が検出されるlncRNAを検出し、このlncRNAの発言がパラスペックルによって、どの様に制御されているかを解析した。その結果、NEAT1の発現上昇によってパラスペックルを肥大させる条件下で、このlncRNAの発現が著しく抑制されることを見出した。新規なarcRNA探索については、昨年度実施した様々なストレス条件下の細胞において実施した難溶性RNA-seqデータを解析した結果、複数の遺伝子転写物の3'末端が著しく伸長したDoGsと呼ばれるRNAがストレスに応じて合成され、それが著しい難溶性を示すことを見出した。このDoGsの細胞内局在をFISHで解析した結果、核内構造体様のfociを形成していることが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パラスペックル構造体をRNPブロック共重合体のミセル化という過程を経て形成されるというオリジナルな知見を基に、このブロック重合体の親水性領域の責任タンパク質の候補を同定し、その実体を明らかにできた事は大きな進展と言える。またこうしたミセル構造を形成する意義を理解するための標的遺伝子として特定のlncRNAが有望なモデルとなりうることを示した点も今後の研究の展開を考える上で重要な進展である。さらに細胞内で相分離構造体を形成しうるRNAとしてDoGsを同定したことも重要な発見である。以上のことから、当初計画していたことを大きく上回る知見を獲得できたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
理論に基づいたミセル化によるパラスペックル構造形成について、その過程に関わる分子実体とその働き方を詳細に明らかにし、さらにこうしたミセル構造において、どのような特異的機能を発揮しているかを、細胞生物学や生物物理学の知見を取り入れて明らかにすることによって、RNAによる相分離構造体の形成原理の理解、さらには相分離構造体の作動原理の理解を達成することを目指す。
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