研究課題/領域番号 |
20H00449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
胡桃坂 仁志 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (80300870)
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研究分担者 |
香川 亘 明星大学, 理工学部, 教授 (70415123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム / 遺伝子 / 癌 / 蛋白質 / 放射線 |
研究実績の概要 |
真核生物のゲノムDNAはクロマチンを形成している。クロマチンにおいてゲノムDNAは、さまざまな内的および外的要因によって二重鎖切断などの損傷を受けている。そのため細胞には、ゲノムDNA二重鎖切断損傷を正確に修復するための機構が備わっている。分裂細胞では、複製された染色体を鋳型にした相同組換え修復(HRR)により、二重鎖切断の正確な修復が可能となる。一方で、複製を経ない非分裂細胞では、HRRの代わりとなる機構として、転写と共役した二重鎖切断修復(TC-HR)が提案されている。そこで本研究では、TC-HRで機能すると考えられるRAD52やRAD51に着目し、これらがCSBなどのクロマチンリモデリング因子とカップルして、クロマチン上で相同組換え反応を触媒するしくみを解明することを目指す。本目的を達成するために、以下の計画1-3の研究を行なった。<計画1> CSBが二重鎖切断損傷と遭遇したRNAポリメラーゼを認識するしくみの解明:本年度では、CSBのPichia属の酵母ホモログであるRAD26の精製系を確立することに成功した。また、二重鎖切断近傍に局在するH2A.Xを含むヌクレオソームの結晶化に成功し、現在、構造解析が進行中である。<計画2> クロマチン構造の基本単位であるヌクレオソームの構造を変換するしくみ:本年度では、CSBによるクロマチンリモデリングの分子機構を明らかにするために、リンカーDNAを含むヌクレオソームを再構成し、その立体構造解析のクライオ電子顕微鏡による解析を開始した。<計画3> RNAに依存したDNA修復反応におけるRAD52の役割:本年度は、RAD52と単鎖RNAとの複合体の調製に成功した。また、全長のRAD52単体およびRNAとの複合体の立体構造解析をクライオ電子顕微鏡解析によって進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、計画している3項目全てにおいて、当初の計画以上の進展が見られた。<計画1> 「CSBが二重鎖切断損傷と遭遇したRNAポリメラーゼを認識するしくみの解明」では、本研究の主要な材料として、CSBホモログであるPichia属の酵母由来のRAD26の精製系を確立することに成功した。Pichia属の酵母のRNAPIIを用いたin vitro転写系はすでに確立済みであり、Pichia RAD26を用いたin vitro転写実験を行うための重要な進展であった。加えて、当初の計画を上回り、Pichia酵母由来のヒストンを用いたヌクレオソームの再構成系の確立にも成功している。<計画2> 「クロマチン構造の基本単位であるヌクレオソームの構造を変換するしくみ」では、ヌクレオソームリモデリング反応の中間体構造を可視化するための、リンカーDNAを含むヌクレオソームの再構成およびクライオ電子顕微鏡でのデータ取得に成功した。これによって、CSB、RAD52、RAD51、ヌクレオソームなどによって作り出されるリモデリングの中間体構造の解析が可能になった。並行して、RAD51とヌクレオソームとの複合体のクライオ電子顕微鏡解析も行い、低分解能の構造情報が得られつつある。<計画3>「RNAに依存したDNA修復反応におけるRAD52の役割」では、これまで未解明であった全長のRAD52の立体構造および、その単鎖RNAとの複合体の立体構造の解析を、クライオ電子顕微鏡法によって開始した。現在、画像データを取得している。
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今後の研究の推進方策 |
計画している3項目において、順調に進展しているため、計画通りに研究を推進する。<計画1> 「CSBが二重鎖切断損傷と遭遇したRNAポリメラーゼを認識するしくみの解明」では、Pichia属の酵母由来のRAD26の精製を行い、RNAPIIを用いたin vitro転写実験を行うことで、RNAPII によるヌクレオソーム転写におけるRAD26の役割を明らかにする。並行して、損傷を任意の部位に導入したヌクレオソームやγH2A.Xを含むヌクレオソームを作製し、RNAPIIによる転写を停止させることで、RAD26-ヌクレオソーム-RNAPII複合体の再構成を行い、複合体の立体構造の解析を行う。<計画2> 「クロマチン構造の基本単位であるヌクレオソームの構造を変換するしくみ」では、CSB、RAD52、RAD51、ヌクレオソームなどによって作り出されるリモデリングの中間体構造の解析を、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析で行う。並行して、RAD51とヌクレオソームおよび、RAD52とヌクレオソームとの複合体のクライオ電子顕微鏡解析も行い、これらのDNA修復因子がどのようにヌクレオソーム中のDNAの相同性を識別するのかを明らかにする。<計画3>「RNAに依存したDNA修復反応におけるRAD52の役割」では、これまで未解明であった全長のRAD52の立体構造および単鎖RNAとの複合体の立体構造を明らかにすることで、DNA修復におけるRAD52およびRNAの役割を解明する。
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