研究課題/領域番号 |
20H00453
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白川 昌宏 京都大学, 工学研究科, 教授 (00202119)
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研究分担者 |
大木 出 京都大学, 化学研究所, 特定研究員 (80418574)
五十嵐 龍治 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, グループリーダー (90649047)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液滴 / 液液相分離 / 量子センサー / 光検出磁気共鳴法(ODMR) / アミロイド |
研究実績の概要 |
近年、生体分子の液-液相分離が形成する巨大構造体「液滴」が細胞内の生化学反応の場所、タイミングなどの制御に関わっていることが明らかになってきた。液滴はまた相変化により神経変性疾患に伴うタンパク質線維を形成する場合があることが明らかになってきた。しかし液滴の成分や形成機構についてはその多くが不明である。その解明には、既存の計測・解析手法のみでは困難である。本研究では、代表者らが開発してきたIn-cell NMR、RheoNMR、ナノ量子センサー(ODMR)などの計測技術を開発し用いることで、液滴形成と維持、相変化における物性値を明らかにすることによって細胞内での液滴形成機講の解明を目指した。 液滴形成の解析手法として、特にダイヤモンドナノ粒子量子センサーの開発にとりかかった。これは、ナノダイヤモンド粒子を分子標識プローブとして用いて、光検出磁気共鳴法(ODMR)により量子センシングをする手法である。細胞内の微小空間における粘性、温度、pHなどの物性を10nmオーダーの空間分解能で計測し、細胞内の液滴や線維の空間分布と生成過程を明らかにする事が可能である。微小ダイヤモンド内の窒素空孔センター(NVC)をさまざまな物性パラメータの量子センサーとして計測する手法の開発として、以下の成果をあげた。NVCのスピン三重項電子を用いた室温における光超偏極技術を確立し、分散した5ナノメートル極微小ナノダイヤモンドを利用した量子センサーを開発した。加えて、ナノダイヤモンドの生体適合性向上のためのワンポット合成法を開発し、細胞内温度計測を行った。さらに、ナノダイヤモンドの表面官能基の改質、特にヒドロキシ化によるNVCのODMRコントラストの増強を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内のセンシングに向けて、ナノダイヤモンドの細胞内送達技術に取り組んだ。また、ナノダイヤモンドを用いたT1強調イメージング技術を開発し、ナノ微小空間のpHの可視化を実現した。加えて、プローブの動態計測として、ナノダイヤモンドを用いた三次元ナノ回転運動トラッキング技術を開発し、これを活用した1分子構造変化の3次元検出、細胞粘弾性計測などを実証した。さらに、機械学習を適用した計測感度の向上、熱計測の解析感度・精度の向上、ナノ粒子中での格子欠陥形成メカニズムの解明、など、いくつかの大きな進展があり、これら開発技術を適用することにより精製タンパク質系におけるLCドメインが液滴を形成する最初期の機序について重要な知見を得た。また、選択計測技術の開発を進めたことにより、培養細胞系において極微量な生体分子の検出が可能となり、次年度に行う細胞計測の準備が進行した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までの研究で、特に手法の開発について顕著な進捗が見られた。RheoNMRをつかって、ALS と相関のあるSOD1 に関して線維形成のメカニズムに関する重要な知見を得た。またin-cell diffusion実験を行い細胞内のユビキチンに拡散速度が大きく異なる2つの分子種があることを示した。ODMRについても相当量の進捗が見られた。10-40 nmの大きさのナノダイアモンドで、温度、拡散係数、pH等の計測が可能であることを示した。 2022 年度はODMRの技術応用として、これまで主な計測対象としてきたFUSだけではなく、HP-1,TDP-43 やα-synuclein などの細胞内線維体を形成しうるタンパク質の高次構造体形成の観察と、それに必要なナノダイヤモンドセンサーの細胞内、核内への導入法の開発を進める。これらのLLPS を起すタンパク質については、細胞内での溶液状態ーLLPSー線維の状態変換における分子成分、物理化学量変化を精密に計測する。即ちODMRによりサブナノメートルレベルの空間分解能での物性値の高精度・高速計測を行う。統計的な分析に充分耐える規模の計測データの取得を目指す。さらに有機的にRheoNMR, in-cell NMR等からえられる知見と組み合わせて、個々の液滴の形成を特徴づける物理化学的パラメータの精密計測に基づきながら、熱力学的な要因を特に考慮してに般化されたロバストなモデルの構築を目指す。
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