研究課題/領域番号 |
20H00457
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
川原 裕之 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (70291151)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Ubiquitin / Proteasome / Protein degradation / protein quality control / Pre-emptive / BAG6 / membrane traffic / Rab8a |
研究実績の概要 |
低分子量Gタンパク質群は、シグナル伝達の中核をなす膜結合タンパク質である。従来、安定な生体分子と考えられてきた低分子量Gタンパク質Rab8が、GDP型特異的に、プレエンプティヴ経路を介して急速分解されることを我々は見いだした (EMBO Rep. 2019)。プレエンプティヴ経路の破綻はGDP型の蓄積を誘導し、小胞輸送を強力に障害する。多彩な機能を持つ他の低分子量Gタンパク質群も、プレエンプティヴ経路の標的となることが新しく判明し、その意義と標的識別メカニズムの解明が、焦眉の課題となっている。本研究では、ヌクレオチド依存的な低分子量Gタンパク質群の分解に初めて焦点を当て、Gタンパク質に関する記述を書き換える提案に挑んでいる。我々は最近、極めて安定な膜タンパク質と考えられてきた低分子量Gタンパク質(Rab8a)が、(1)GDP型特異的にプロテアソームによる急速分解を受けること、(2)GDP型Rab8aのユビキチン化にBAG6複合体が必須であること、(3)プレエンプティヴ経路が小胞輸送の調節に必須であることを見いだした(EMBO Rep., 2019)。これらの知見は、低分子量Gタンパク質に全く新しい制御システムが存在することを示している。 また、我々は、BAG6がインスリン依存的なGLUT4輸送に関与することを、最近、見いだした(未発表)。GLUT4は、インスリン刺激に伴ってプラズマ膜表面に移行し、細胞外グルコースの取り込みと血糖ホメオスタシス維持に関わる中心的な糖トランスポーターである。プラズマ膜へのGLUT4輸送プロセスはRab8aに依存的であることから、申請者らは、GLUT4輸送調節にBAG6が関与する可能性を調べた。その結果、BAG6を抑圧すると、糖取り込み能の低下とともに、プラズマ膜表面のGLUT4発現が顕著に低下することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低分子量Gタンパク質の多くは、これまで極めて安定と考えられてきた。実際に、細胞内で大多数を占めるGTP型は長い半減期を示す。そのため選択的分解に関連した知見は、現在、ほとんど存在しない。一方、我々はプレエンプティヴ経路に依存的な、「GDP型特異的」Rab8a分解を見いだし、この破綻が膜輸送を阻害することを突き止めた(EMBO Rep., 2019)。さらに、GDP型Rab8aのみならず、多くの低分子量Gタンパク質群の量的調節因子として、BAG6複合体を新しく見いだしつつある(未発表)。出発・到着オルガネラが物理的に隔たるGタンパク質の場合、到着地で不活性化(GTP加水分解)されたGDP型が、その後どのような運命を辿るのかは、ほとんど理解されていない。GDP型Gタンパク質の分解運命を初めて解明する本研究しては、全く新しい学術的概念の提出に向けて、独自性と創造性がある。特にGDP型Gタンパク質の異常蓄積は、オルガネラ恒常性の破綻を伴う多くの病態と直結する。膜輸送や細胞遊走の異常から生じる多くの疾患の理解と治療法開拓に向けて、本研究は極めて大きな波及効果と独自性を有している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、BAG6による分解ターゲティングが必須である低分子量Gタンパク質 (EMBO Rep. 2019) をモデルに、プレエンプティヴ品質管理マシナリーが標的G タンパク質を峻別するメカニズムを構造生物学的に解明する。近年の方法論的な進歩によって、従来は20kDa程度であったNMR(核磁気共鳴)の「分子量の壁」が、現在では50-80kDa程度まで引き上げられつつある。一方、申請者らは既に、GDP型Rab8aと複合体形成が可能な「BAG6基質認識のミニマム断片(23kDa)」を開発している。このことは、以前は困難と思われたBAG6-基質複合体のNMR解析が、いよいよ射程圏に入ってきたことを意味する。そこで本申請では、BAG6がGDP型Rab8aを選択的に捕獲する時の構造的基盤解明に挑む。得られた構造変化情報を、BAG6変異体(GDP型Rab8aを認識できない変異)のデザインとノックイン細胞作製(ゲノム編集)へと還元し、プレエンプティヴ経路が低分子量Gタンパク質を制御する意義解明へと繋げる。 一方、BAG6複合体には、基質認識のブレーキとして機能するサブユニット群が存在する。我々のX線結晶構造解析から得られた知見を応用し、これら抑制因子との相互作用を遮断する薬剤を化合物ライブラリーからスクリーニングする。我々は既に、BAG6複合体サブユニットの解離会合をスプリット-ルシフェラーゼの原理で定量する実験系(Nano-BIT)の構築に成功している。この系に分子間相互作用解析装置を用いた定量アッセイを組み合わせ、薬剤によるサブユニット間相互作用の阻害を探索する。BAG6複合体「抑制」サブユニットとの会合を「遮断」する化合物を同定することで、プレエンプティヴ経路を自在に「活性化」しうるシステムを創出し、同経路の減弱がもたらす2型糖尿病やリソソーム病などを標的に、創薬への突破口を開く。
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