研究課題/領域番号 |
20H00459
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
深田 正紀 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 教授 (00335027)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シナプス / タンパク質 / 脳・神経 / ナノドメイン |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)分泌リガンド・受容体LGI1-ADAM22と(2)パルミトイル化脂質修飾関連酵素を起点として、シナプス前・後部の協調機構とシナプス-ナノドメインの形成機構を明らかにする。2021年度は、「LGI1-ADAM22によるシナプス-ナノドメイン間の連結制御機構の解明」を中心に進めた。私共は、前年度(2020年度)にLGI1-ADAM22-PSD-95(およびMAGUKファミリー)複合体が、シナプス前後部のナノドメインを対面整列させる中心的な構成因子として機能し、シナプス伝達を精緻に制御することを報告した(Fukata Y et al, PNAS 2021)。 2021年度はこの成果をさらに発展させ、米国UCSFのNicoll博士との共同研究により、LGI1-ADAM22-PSD-95経路が、他のMAGUKタンパク質SAP102経路と協調して、海馬の長期増強(LTP)に必須の役割を果たしていることを見出した(Chen X et al, PNAS 2021)。さらに、私共はADAM22の合成経路と分解経路に関する研究を行い、ADAM22の832番目のセリン残基がPKAにより高度にリン酸化され、14-3-3というタンパク質と強固に結合することで安定にシナプス膜に局在することを見出した。実際、ADAM22のリン酸化欠損マウスでは、ADAM22の脳内での発現量は野生型マウスの40%にまで減少していた。さらに、ADAM22とLGI1の発現量が異なる7種類のマウスを作製し、ADAM22の量が健常マウスの約10%あればてんかん発症を抑えられることを明らかにした。一方、LGI1の量は健常の30%まで低下すると致死性てんかんが発症し、自発性てんかんを抑止するには50%は必要であることを見出した。(Yokoi et al. Cell Reports 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) LGI1-ADAM22-PSD-95経路がSAP102経路と協調して海馬における長期増強に必須な役割を果たすことを見出した(Chen X et al, PNAS 2021、Fukata Y et al, Neuropharmacology 2021)。 (2) ADAM22の合成経路と分解経路を明らかにし、マウス脳において、てんかん発症を抑止するのに十分なADAM22の量を明らかにした(Yokoi et al. Cell Reports 2021)。
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今後の研究の推進方策 |
(1) LGI1-ADAM22-PSD-95複合体によるシナプス-ナノドメイン間の連結制御機構の解明 ADAM22とPSD-95の結合破綻により、シナプス後部膜におけるPSD-95集積が減少する分子基盤の詳細を明らかにする。また、LGI1自己抗体を活用することにより、抗LGI1抗体脳炎の病態の詳細を明らかにする。 (2) パルミトイル化サイクルによるシナプス-ナノドメインの形成・再編機構 脱パルミトイル化酵素ABHD17ノックアウトマウスの神経細胞における、PSDナノドメインのサイズや大きさを解析する。また、パルミトイル化サイクルを受けないPSD-95変異体の性状解析を進める。
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