研究実績の概要 |
シロオビアゲハのベイツ型擬態の原因領域は染色体逆位によって固定されたスーパージーンであるが、ほぼ同じ構造の擬態スーパージーンをもつ近縁種のナガサキアゲハには染色 体逆位が存在しない。そこで、2種の擬態スーパージーンの構造と構成遺伝子の発現と機能の比較などから、ベイツ型擬態の平行進化の遺伝的背景とスーパージーンの構築原理を解明することを目的として研究を行った。2021年度の研究から、擬態スーパージーンの機能と進化を明らかにするためには、転写因子であるDsxHの下流下流遺伝子のネットワークを解明する必要があると考えた。そこで、シロオビアゲハの擬態原因領域内の遺伝子(dsxH, UXT, U3X)をEM-RNAi法でノックダウンし、RNAseq法により処理翅と非処理翅の間でのRNA発現を比較して、3遺伝子下流の標的遺伝子をリスト化するとともに、各標的遺伝子の機能をさらにEM-RNAi法で解析した。その結果、UXTやU3XはdsxHの下流にはなく、むしろU3XがdsxHの上位で働いている可能性が示された。また、各遺伝子下流で共通に働いている遺伝子としてWnt1,6やrnが同定された。一方、アゲハチョウ属Menelaides亜族に属する近縁種のwhole genome sequenceデータをreassembleして構造を詳細に比較した。メスに2型性があるナガサキアゲハ、シロオビアゲハに加え、アカネアゲハのゲノム配列を、SNPを基に擬態スーパージーン近傍の連鎖不平衡(LD)領域を推定して相同組換えの抑制領域を明らかにしたところ、左側の抑制領域は3種ともにUXTの5’UTR内部に存在した。シロオビアゲハのみに逆位が見られるが、残りの2種については逆位が存在しないことから、転移因子などの蓄積などにより相同組換えが抑制されている可能性が示唆された。
|