研究課題/領域番号 |
20H00485
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡野 栄之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60160694)
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研究分担者 |
矢野 真人 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (20445414)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ALS / 運動ニューロン / ベイジアンネットワーク解析 / iPS細胞 / RNA結合蛋白質 |
研究実績の概要 |
遅発性神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症ALSは、表現型の出現までに、原因となる遺伝性変異などを内在しながらも長期に渡り細胞が生存、機能するため、何らかの細胞機能の脆弱性回避の分子システムの存在が示唆されている。そこで本研究は、iPS細胞を用いたin vitroのALS細胞モデルを用い、運動ニューロンの蛋白質凝集、神経突起の退縮、細胞死に至る細胞機能の脆弱性回避の分子基盤解明を目的とする。本研究計画で、我々はiBRN (“non-biased" Bayesian gene regulatory network analysis based on induced pluripotent stem cell (iPSC)-derived cell model)と名付けたiPS細胞由来神経細胞を用いたベイジアンネットワーク解析手法を用いて、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の分子病態に内在するトランスクリプトーム情報(RNA発現情報)に対して強い影響力を示すハブ遺伝子群の探索を行った。具体的には、健常者および家族性ALS患者の中でもFUS遺伝子(H517D)に変異を持つiPS細胞由来運動ニューロンの前駆細胞、分化成熟段階を含む60種類のトランスクリプトーム情報を基に、iBRN解析を実施した。その結果、病態に対するトランスクリプトーム情報に対し、強い影響力を示す3つのハブ候補遺伝子として、PRKDC、miR-125b-5p、TIMELESSを同定した。さらに、培養細胞をモデルとした検証実験によって、PRKDCの活性が、ALSの原因遺伝子であるFUS蛋白質の異常局在に関わる事、さらに、miR-125b-5pおよびTIMELESSは、直接標的とした分子経路を示し、神経細胞変性のトリガーとなりうる分子病因であるDNA損傷を引き起こす事を実証した(Nogami et al. Neuobiol. Dis 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
iBRN解析により3つのRNA制御因子群を同定し、いづれも神経変性疾患の原因となるDNA損傷に深く関わる事が分かった。本研究により我々の確立したiBRN解析は、神経変性疾患に対する分子病因探索に有効性を示すと共に、他の様々な原因不明の疾患における分子病因解明への新しい研究戦略を提供しうるものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に、我々の大規模のiPS由来細胞からのとランスクリプトーム情報を基にしたiBRN解析の有効性を実証することができた。今後は、iBRNにより得られた3つの分子群PRKDC、miR-125b-5p、TIMELESSおよび他の候補分子群のさらなる詳細な解析を行う。また、新たに作成したFUS遺伝子のP525L変異を持つiPS細胞由来運動ニューロンを用いたマルチオミミクス解析を実施し、iBRN解析によるハブ候補因子群との関連および統合解析を行う事で、本研究計画の目的である神経細胞機能の脆弱性回避の分子機構の検証を行っていきたい。
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