研究課題
R4年度は関節リウマチモデルを利用して遠隔部位に左右対称な炎症病変を生じさせる遠隔炎症ゲートウェイ反射機構を見出し、また全身性エリトマトーデス(SLE)モデルを用いて精神神経ループス(NPSLE)と呼ばれる重症の病態の分子機構の一端を解明することができた。まず、 遠隔炎症ゲートウェイ反射では、関節リウマチモデルマウスの片側足関節の炎症で生じるATPが、感覚神経、続いて脊髄のプロエンケファリン陽性介在神経を順に活性化し、その後反対側の足関節に分布する感覚神経を活性化することにより、逆行性のATP放出を介して血管内皮細胞や線維芽細胞など非免疫細胞でIL-6アンプを惹起することで遠隔炎症が誘導される機構が明らかとなった。すなわち、遠隔炎症ゲートウェイ反射において、ATPが神経伝達物質かつ炎症増悪因子として作用することがわかった。また、慢性ストレス導入は、正常マウスにおいて不安を増強するが、SLEモデルでは不安を減少させ、NPSLE様の脱抑制様行動を誘導することを見出した。詳細な解析の結果、ストレス依存的に内側前頭前皮質で異常に活性化したミクログリアからIL-12/23p40が産生され、神経細胞も活性化されることがわかった。これらの変化は、IL-12/23p40中和抗体の投与で抑制された。さらに、健常者や軽症のSLE患者と比べて、NPSLE患者では、モデルマウスと同様に髄液中のIL-12/23p40濃度が高値であり、前頭前皮質の体積がより小さかったことから、ヒトにおいても同様の発症機構が関与している可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
R3年度は上記の結果に代表されるように、新しいゲートウェイ反射機構の存在を明らかにするとともに、これまで明らかになっていなかった遠隔部位への左右対称性の炎症病態形成機構やNPSLEの発症機構を分子レベルで明示することができた。これらの成果は、遠隔炎症ゲートウェイ反射に関与する神経回路やATPが関節リウマチ、間質性肺炎、乾癬など、遠隔炎症を引き起こす炎症性疾患の治療標的として期待できること、またSLEにおいて前頭前皮質ミクログリアより慢性ストレス依存的に産生誘導されるIL-12/23p40がNPSLEの新たな治療標的となる可能性を示唆した。
当初の研究計画に沿って研究が進展していることから、今後も研究計画に基づいて研究を推進し、SG反射の未解明な4ステップ 1自己反応性T細胞の抗原特異性と SG反射病態との関係、2自己反応性T細胞の脳特定血管部への浸潤のための分子機構、3自己反応性T細胞組織浸潤を誘導する神経回路・微小炎症から誘導される 神経回路、4突然死に関連する神経回路と病態誘導機構を解析する。研究計画1では、SG反射に関与する自己反応性T細胞をクローン化し、TCR遺伝子を同定する。また、自己反応性T細胞近傍の抗原提示細胞(APC)を単離後にLCMSでペプチド抗原の同定を行い、MHC-テトラマーによる検出系を確立する。研究計画2では、自己反応性T細胞の移入やストレス負荷の有無で、脳の特定血管部位におけるIL-6アンプの活性化を免疫組織化学染色法で経時的に解析し、血管周辺の免疫細胞を単離して1細胞RNAseqで特異的に発現する分子の機能解析を行う。 研究計画3では、SG反射の突然死に関与する神経細胞や特異的な神経伝達物質や機能マーカー、活性化機構の解析を行い、神経回路の人為的な活性化制御を介したバイオエレクトロニック医療の基盤を構築する。研究計画4では、上部消化管炎症を起点とする心不全・突然死に関連する神経回路を同定する。求心性迷走神経回路を介して脳に信号を送り、さらに心臓への投射を介して病態を形成する遠心性迷走神経回路の詳細と病態形成の分子機構を解明する。
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