単純ヘルペスウイルス(HSV)は、最も研究の進展したウイルスの1つであり、今日でもアンメット・メディカルニーズが高いことから、医学上重要なウイルスである。HSV増殖期には、約100種類のウイルス因子が発現し、多機能性蛋白質として、宿主蛋白質と極めて複雑なネットワークを形成することで、子孫ウイルスの産生に適した細胞内環境が生み出される。各HSV因子の驚くべき多機能性のため、HSV研究は、それぞれの感染現象(細胞侵入、粒子形成、細胞内輸送、遺伝子発現、ゲノム複製、免疫応答、病原性等)ごとに高度に細分化されている。一方、HSV研究における普遍的な問いである「HSVの増殖・病態発現機構の全体像」は「複雑な感染現象の総和」と言える。したがって、「細分化された個別の感染現象」(細胞侵入、粒子形成、細胞内輸送、遺伝子発現、ゲノム複製、免疫応答等)を、個々の研究者が各々の実験系で解析するだけでは、「HSVの増殖・病態発現機構の全体像」の解明には至らない。本研究では、研究代表者が長年の基礎研究で蓄積してきた様々なHSVに感染現象に関する世界トップレベルの知見を基盤に、先端的テクノロジーにより紐解く様々な感染現象を生体レベルのin depth解析に落とし込み、多階層的知見を「HSVの増殖・病態発現機構の全体像」として統合的に理解していくことを目的とする。今年度は、様々な感染現象解析の基盤となる機器を整備し、また、各種変異ウイルス、各ウイルス因子発現プラスミドや抗体等、研究試料の作製に着手した。さらに、計画しているスクリーニングを順次開始した。
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