研究課題/領域番号 |
20H00511
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小安 重夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (90153684)
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研究分担者 |
三澤 拓馬 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (20880694)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自然リンパ球 / 脂肪組織炎症 / 肥満 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、腸管常在性のILCが高脂肪食による肥満の誘導に関わることを示してきた。その詳細な機序を明らかにするためには、高脂肪食負荷前後で腸管ILCの機能を解析することが必須である。しかしながら、研究代表者らが使用しているC57BL/6N(B6N)マウスでは高脂肪食給餌によって腸管に激しい炎症が生じ、細胞の回収が極めて困難になってしまう。そこでマウスの系統をC57BL/6J(B6J)に変更し、同様の検討を行ってみた結果、こちらの系統では高脂肪食を給餌しても腸管から問題なく細胞を回収することができた。B6JはB6Nに比べて肥満になりにくい傾向があるものの、この表現型は少なくとも免疫系の差異に起因したものではないことを確認している。また、B6JおよびB6Nの腸管ILCの数および割合に大きな差はない。よって今後はB6Jマウスに高脂肪食を給餌し、腸管からILCを調整して、それらの機能解析を進める。 上記と並行して、研究代表者らは腸管ILCの機能に影響を与えうる因子の探索も行い、その候補として消化管ホルモンに着目した。公共のデータベースや研究代表者らが過去に行ったRNA-seqのデータを参考にしながら、ILCにおける消化管ホルモン受容体の発現パターンについて調べてみたところ、ILC2およびILC3はセロトニンに対する受容体HTR1b、およびVasoactive intestinal peptide(VIP)に対する受容体VIPR2を高発現していることが明らかとなった。そこで、これら受容体を欠損した遺伝子改変マウスを作製し、その代謝応答について解析を行った結果、大変興味深いことに、HTR1b欠損マウスは高脂肪食負荷に対して顕著な肥満抵抗性を示すことが明らかとなった。VIPR2欠損マウスに関しては、次年度より解析を始める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高脂肪食を給餌したマウスの腸管から、効率よく細胞を調整する方法を確立できたことは大きな前進であった。これにより、高脂肪食負荷前後で腸管ILCの機能を解析することが可能となった。また、HTR1b欠損マウスが高脂肪食負荷に対して著しい肥満抵抗性を示したことも腸管ILCの機能に関して大きなヒントを与えてくれるものと思われる。概要でも述べたが、HTR1bは腸管ILC(特にILC2)が高発現しているセロトニン受容体である。過去の研究からセロトニンと肥満の誘導には密接な関わりがあることが示されているため、現在、「高脂肪食給餌→腸管でセロトニンの産生が上昇→HTR1bを介して腸管ILC2が活性化→肥満の誘導」というメカニズムを想定しており、この仮説に基づいて今後の解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
・高脂肪食を給餌したB6Jマウスの腸管からILC、あるいはその他の腸管細胞を調整し、それらの機能をRNA-seq解析等を通じて明らかにしていく。 ・HTR1b欠損マウスは高脂肪食負荷に対して顕著な肥満抵抗性を示したものの、この表現型が免疫系に依存したものかは未だ不明である。そこで、HTR1b欠損マウス由来の骨髄細胞をγc-/-Rag2-/-マウスに移植し、その体重の変化を高脂肪食負荷前後で解析する。また、HTR1b欠損マウスの摂食量や活動量についても解析を進める。上記と並行して、HTR1b欠損マウスの腸管ILCの機能(例えばサイトカインの産生能など)を野生型マウスと比較する。VIPR2欠損マウスについても、HTR1b欠損マウスと同様に解析を進める。
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