研究代表者らは、腸管常在性の自然リンパ球(Innate Lymphoid Cell: ILC)、特に2型自然リンパ球(ILC2)と3型自然リンパ球(ILC3)が高脂肪食による肥満の誘導に関わることを示してきた。本研究では腸管ILCの機能に影響を与えうる因子の探索を行い、その候補として消化管ホルモンに着目した。公共のデータベースや研究代表者らが過去に行ったRNA-seqのデータを参考にしながら、ILCにおける消化管ホルモン受容体の発現パターンについて調べてみたところ、ILC2およびILC3はセロトニンに対する受容体であるHTR1bおよび血管作動性腸管ペプチド(Vasoactive intestinal peptide:VIP)に対する受容体であるVIPR2を高発現していることが明らかとなった。そこで、これら受容体を欠損した遺伝子改変マウスを作製し、その代謝応答について解析を行った結果、HTR1b欠損マウス、VIPR2欠損マウス共に高脂肪食負荷に対して顕著な肥満抵抗性を示すことが明らかとなった。この表現系が免疫細胞によるものかを検討するために、自然リンパ球を含むすべてのリンパ球を欠損し、高脂肪食負荷に対して肥満抵抗性を示すγcとRag2の2重欠損マウスに骨髄移植を行った。VIPR2欠損マウス由来の骨髄細胞を移植した場合には、野生型由来の骨髄細胞の場合と同様に、高脂肪食負荷によって肥満が誘導されたことから、免疫細胞以外の細胞に発現するVIPR2が肥満の誘導に関与することが示唆された。一方、HTR1b欠損マウス由来の骨髄細胞を移植した場合には野生型由来の骨髄細胞の場合に比較して高脂肪食負荷に対してより肥満が誘導され、セロトニンが免疫細胞を介して肥満の抑制に関与することが示唆された。今後、セロトニンがどのようにして肥満を制御しているか、その機序を明らかにしていくことが課題である。
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