研究課題/領域番号 |
20H00513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮園 浩平 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (90209908)
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研究分担者 |
赤木 蓉子 (勝野蓉子) 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (70771004) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 浸潤・転移 / シグナル伝達 / 分子イメージング / がん微小環境 / 実験動物モデル |
研究実績の概要 |
(柱1)TGF-βおよびEMTのがん転移における役割 Smad4の異常は膵臓がん症例の半数で見られる。我々はヒト膵臓がん細胞株についてSmad4の発現を確認し、R-Smadのリン酸化、non-Smadシグナルの活性化、Smad4ノックアウト細胞の作製を開始した。Smad4の発現低下株では、non-Smad経路のうち、Rasの下流であるMAPKシグナルの活性が変化することを示した。 乳がん細胞では、TGF-β刺激によりEMTが可逆的から安定化した形質へと変化する。我々はChIP-seqにより、可逆的EMTから安定化EMTへと変化する過程で、ヒストン修飾パターンが変化することを明らかにした。一方、我々はTGF-βの新たな作用としてtriple negative乳がん細胞 (TNBC)に対する抗pyroptosis作用を見出した。RIG-1 like receptor (RLR)を活性化する二本鎖RNAアナログpolyI:CをTNBC細胞に導入するとRLR依存性にTGF-β-Smad3シグナルが抑制され、がん細胞死が促進した。さらに動物実験においてもpolyI:C導入の効果を確認した。 (柱2)透明化技術を応用したがん転移の分子機構 Fucciレポーターシステムでは細胞周期のG1期とS/G2/M期にある細胞を可視化することができる。我々は組織透明化技術にFucciレポーターシステムを応用することで、in vivoにおけるがん細胞の細胞周期パターンを調べた。腫瘍コロニーのFucciレポーターの蛍光パターンは様々な臓器で多様であったが、肺や骨転移巣などでは中心部にG1期の細胞が、周辺部ではS/G2/M期の細胞が特徴的に見られる傾向を示した。抗がん剤の効果を検討したところ、5-FU処理ではG2 /M停止が誘導され、特徴的な蛍光パターンを示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(柱1)TGF-βおよびEMTのがん転移における役割 TGF-βは多彩な作用を示すことが知られている。膵臓がんでのSmad4の機能は未解明な点が多く、詳細な解析が必要である。複数の膵臓がん細胞株でSmad4の発現が低下していることを確認したことから、これらの細胞でのTGF-βの作用を比較しながらSmad4欠損の影響を明らかにする準備が整い、今年度はnon-Smad経路の作用などを明らかにした。 TGF-βに対する乳がんの作用では可逆的EMTと安定化EMTではヒストン修飾パターンが変化することを見出すなど、両者の相違を転写レベルで明らかにすることができた。また予後不良の乳がんとして知られるTNBCに対するTGF-βの抗pyroptosis作用など、新たな展開がみられた。 (柱2)透明化技術を応用したがん転移の分子機構 組織透明化技術の導入により、in vivoにおいて1細胞レベルでのがんの浸潤・転移機構の解析が可能となった。Fucciレポーターを発現した細胞を組織透明化技術に導入することで、がんの転移の特徴を明らかにし、抗がん剤の効果を新たな視点から解析することが可能となり、抗がん剤5-FUの投与ではG2/M停止を可視化するなど予期せぬ結果が得られた。また組織透明化技術は実験手技に改良を加えることで従来より短い時間で実施することを実現した。
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今後の研究の推進方策 |
(柱1)TGF-βおよびEMTのがん転移における役割 膵臓がんでのSmad4の異常は膵臓がんの治療法の開発に重要と考え、さらに研究を続ける。公的データベースの解析を詳細に行い、Smad4異常の膵臓がん症例における役割を予測しつつ研究を進める。 TNBCは乳がんの中でも最も悪性度の高いタイプの乳がんの一つである。TNBCではTGF-β-Smad3経路は抗pyroptosis作用を示すことが明らかとなった。二本鎖RNAアナログはTGF-βの作用に拮抗することから、その腫瘍内投与の臨床的な効果が期待され、腫瘍微小環境との関連を含めて検討を続ける。 (柱2)透明化技術を応用したがん転移の分子機構 組織透明化はこの先広く応用される研究手法と思われる。今後、組織透明化で得られた結果を数理科学的に解析する手法を導入し、より客観的に評価することを目指す。組織透明化技術の実験手技の実際について国際誌STAR Protocol誌に発表したことから、本手法を国内外に広く紹介していきたい。
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