研究課題/領域番号 |
20H00522
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
宮川 剛 藤田医科大学, 医科学研究センター, 教授 (10301780)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 成熟度可塑性 / 海馬歯状回 / クロマチン構造 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、神経活動依存的な神経細胞の成熟度変化の分子基盤を明らかにすることを目的に、光遺伝学的技術を用いて海馬歯状回に神経過活動を誘導し、神経細胞の性質および機能の変化を調べた。前年度までに取得済みであった神経過活動を誘導した海馬歯状回組織のRNA-seqおよびATAC-seqデータを解析した結果、神経過活動によって海馬歯状回神経細胞の遺伝子発現パターンやクロマチンアクセス性が大規模かつ長期的に変化していたことに加え、クロマチンアクセス性の局所的な変化がその近傍の遺伝子発現に強く影響していることがわかった。さらに、神経過活動による成熟度変化に関わる分子パスウェイの推定結果から、成熟した神経細胞ではほとんど発現が見られない有糸分裂関連遺伝子の一部の発現が神経過活動によって増加しており、これらの遺伝子発現制御が成熟度可塑性に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、神経過活動により分裂細胞の有糸分裂期に観察される核構造の変化と類似した現象が生じることがわかってきたが、このような有糸分裂期様の遺伝子発現が成熟度可塑性にどのような役割を果たしているのかを明らかにするため、有糸分裂期の誘導に必須と考えられている2つの分子(cyclin B1およびcyclin B2)を標的にin vivo遺伝子編集技術を用いて成体マウスの海馬歯状回でそれらの遺伝子を欠損するマウスを作製した。その結果、このマウスでは、神経過活動によるヒストンリン酸化の亢進や、クロモセンターの増大、成熟マーカーであるカルビンジンの低下などが抑制されていることがわかった。以上、本年度は、神経過活動による有糸分裂期様の遺伝子発現変化が、神経細胞の核構造変化や成熟度異常に重要な役割を果たしていることを示す結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、海馬歯状回において神経過活動による成熟度可塑性の分子メカニズムを明らかにするため、網羅的な遺伝子発現解析やインフォマティクス解析を行い、有糸分裂に必須と考えられている分子(cyclin B1、B2)が成熟度可塑性に重要な役割を果たしている可能性があることを見出した。そこで、それらの分子を標的としてin vivo遺伝子編集を行ったところ、cyclin Bが神経過活動による核構造変化やマウスの行動異常の誘導に関与することが明らかとなった。このようにin vivo遺伝子編集実験に関しては順調に進行したが、当初予定していた核構造変化の観察の他に、行動実験などを追加して行う必要があったため、一部の計画に遅れが生じた。また、神経過活動による海馬歯状回の機能的な変化を明らかにするため、in vivo神経活動イメージング技術と光遺伝学的技術を組み合わせ、神経過活動による神経活動パターンの変化を観察することが可能な解析システムを導入し、実験準備を進めた。今後は、実験条件の最適化を図り、神経過活動が海馬歯状回の機能にどのような影響を及ぼすのかについて解析を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、神経過活動による神経細胞のエピジェネティックな変化とそれに伴う神経細胞の機能的変化についてさらに解析を進める予定であり、in vivo遺伝子編集技術を用いて、有糸分裂に関連する遺伝子が神経過活動による細胞の形態や機能の変化に与える影響を核構造やマウスの行動に焦点を当てて網羅的に調べる。また、神経過活動に伴う細胞の機能的な変化についても検討を行う。in vivo神経活動イメージングシステムと光遺伝学的刺激システムを組み合わせた技術を活用し、神経過活動による神経細胞の活動パターンの長期的な変化を経時的に観察する。海馬歯状回では空間認知に関する情報が神経細胞の集団活動によって表現されていることに注目し、これらの情報表現が神経過活動によってどのように変化していくかを詳細に調べる。これらの解析により、海馬歯状回における神経過活動と細胞・行動レベルでの異常との関係を明らかにする。
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