研究課題
本研究の目的は、運動ニューロン疾患のマウスモデルや患者由来iPSCにおけるマルチオミクスやDREADD、脳Caイメージングなどを解析することにより、超早期ライフステージにおけるニューロン変性分子病態とその年齢依存性変化を解明することである。本年度は、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)マウスモデルにおける超早期病態解析と核酸医薬による治療効果解析とを行った。その結果、SBMAモデルマウスではP1の時点から変異アンドロゲン受容体の核内集積が脊髄運動ニューロンや骨格筋において認められ、P7においてそれらの増強が認められた。超早期病態の解明のため、P1雄マウスの脊髄を用いてRNAseqを行ったところ、後シナプス関連分子やCaチャンネルなどの発現増加が認められ、SBMA患者iPSC由来運動ニューロンでみられた変化と合致していた。今後、SBMAの超早期におけるシナプス病態について解析を進める予定である。一方、P1の雄マウスにアンドロゲン受容体に対するアンチセンス核酸(ASO)を脳室内投与したところ、P7において脊髄のアンドロゲン受容体集積が抑制されたが、骨格筋ではアンドロゲン受容体蛋白質の減少は明らかでなかった。この効果はP21にはすべて消失していたが、経時的運動機能解析においては持続的な運動機能の改善が認められ、生存期間も延長した。逆に、P1の雄マウスにテストステロンを皮下投与したところ、運動機能の増悪と生存期間の短縮が認められた。P7においてRNAseqを行うと、ASO治療を行ったマウスのmRNA発現パターンは野生型マウスに近づいていることから、遺伝子発現のレベルでも効果が確認されたと考えられる。これらの結果は、超早期の病因蛋白質の発現量がその後長期にわたる神経筋変性に影響を及ぼすことを示していると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
P1マウスに対するASO治療効果が予想以上に明確に検出でき、RNAseq解析も進んでいる。また、患者iPSC由来ニューロンのデータとも類似したデータが得られ、シナプスに焦点を当てた解析を進めることができている。
今後はSBMAマウスP1~P7におけるシナプス異常について、免疫染色などを用いて検証する予定である。さらに、RNAseqのクラスター解析で抽出された遺伝子群の機能解析を行うことで、新生児期に変異アンドロゲン受容体がどのような経路を介して運動ニューロン変性を惹起するのかを明らかにしていく。
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Mol Ther Nucleic Acids.
巻: 24 ページ: 1-10
10.1016/j.omtn.2021.02.007.