研究課題
本研究の目的は、多因子疾患としての性分化疾患・生殖機能障害発症機序を解明することである。現在までの成果は以下のとおりである。(1)子宮内発育不全が性分化疾患を招く機序:われわれは、子宮内低栄養環境が、マウス胎仔精巣におけるテストステロン濃度の低下およびそれに合致するライディッヒ細胞におけるテストステロン産生酵素遺伝子の発現低下を招くこと、さらに、生後の精子数減少と精子のアポトーシスを招くことを明らかとし、J Endocr Socに発表した。(2)エストロゲン受容体アルファ遺伝子ESR1の微細欠失(deltaESR1)が内分泌撹乱環境化学物質にたいする遺伝的感受性を招く機序:われわれは、ESR1における尿道下裂・停留精巣発症感受性ハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示す2,244 bpの微細欠失を見出していた。本年度は、イタリア人においても、同一の感受性ハプロタイプならびにそれと絶対連鎖不平衡を示す微細欠失が尿道下裂・停留精巣発症感受性因子であることを見出した。さらに、この微細欠失の構造特性と世界中の分布から、本来極めてまれなハプロタイプを有するアジアの創始者においてこの微細欠失が生じ、エストロゲン効果が増強することで子孫を残すうえで有利となり、世界中に広がっていることを明らかとした。そして、この欠失内に存在するCTCF結合部位の欠失がエストロゲン効果の増強を招くという仮説を設定し、CTCF部位を欠失させた細胞と、ほぼ2,244 bpを欠失させた細胞を作成し、これらの細胞においてESR1発現が、定常状態および、エストロゲン様物質暴露後に増加していることを見出した。(3)環境因子と遺伝的感受性の協調作用:これを検討するために、性分化遺伝子Mamld1のヘミノックアウトマウスに対して、子宮内栄養制限試験を開始し、現在進められている。
2: おおむね順調に進展している
(1)子宮内発育不全が性分化疾患を招く機序:野生型マウスにおける子宮内栄養制限が、胎仔精巣内テストステロン濃度の低下およびそれに合致するライディッヒ細胞におけるテストステロン産生酵素遺伝子の発現低下を招くこと、さらに、生後の精子数減少と精子のアポトーシスを招くことを明らかとし、これを米国内分泌学会雑誌(J Endocr Soc)に報告した。この成果は、子宮内発育不全で出生した男児・男性が高率に外性器異常や不妊症を有する原因を明らかとし、さらに、胎児期の低栄養環境が成人期の糖尿病・高血圧・メタボリック症候群などの発症に関与するというDOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)の概念に「精巣機能障害」を加えるものとして注目され、また、この成果は複数の医学情報サイトにおいて紹介された。(2)エストロゲン受容体アルファ遺伝子ESR1の微細欠失が内分泌撹乱環境化学物質にたいする遺伝的感受性を招く機序:この微細欠失が感受性ハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示す理由を2,244 bpの微細欠失が本来極めてまれなハプロタイプを有するアジアの創始者においてこの微細欠失が生じたことを明らかにしたことは、内分泌撹乱環境化学物質の影響が全世界的に認められることを説明するものである。さらに、この微細欠失が感受性ハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示す理由を説明するものであり、臨床遺伝学的に大きなインパクトを与えるものである。(3)環境因子と遺伝的感受性の協調作用:性分化遺伝子Mamld1のヘミノックアウトマウスに対して子宮内栄養制限試験を開始したことで、協調作用を検討することが可能となった。この実験は、妊孕性の観点から予想したよりも困難な実験となっているが、漸く研究可能な数のマウスが野生型とノックアウトで集積された。
(1)子宮内発育不全が性分化疾患・精子形成障害を招く機序:テストステロン産生酵素遺伝子群のエピゲノム解析のために、セルソーターでライディッヒ細胞を取りだし、メチル化解析を開始している。既に細胞は収集され、解析に入っている。これにより、栄養制限がテストステロン産生酵素遺伝子のエピゲノム異常を介してテストステロン産生低下を生じるか否かが明らかとなると期待される。(2)エストロゲン受容体アルファ遺伝子ESR1の微細欠失が内分泌撹乱環境化学物質にたいする遺伝的感受性を招く機序:作成しえたCTCF部位を欠失させた細胞と、ほぼ2,244 bpを欠失させた細胞において、定常状態のESR1発現が増加していることが判明したことから、現在、エストロゲン、ビスフェノールA,DESを負荷した状態におけるESR1発現を、野生型、CTCF部位を欠失させた細胞と、ほぼ2,244 bpを欠失させた細胞の間で比較している。この実験は、付加するエストロゲン・エストロゲン様物質以外のエストロゲン様物質を完全除外しなければならないが、その用意が整った。(3)環境因子と遺伝的感受性の協調作用:子宮内栄養制限試験を行った性分化遺伝子Mamld1のヘミノックアウトマウスにおいて、外性器・精巣内テストステロン濃度、遺伝子発現パターン・メール解析を行う。Mamld1のヘミノックアウトマウスは、内外性器に異常を呈することはないが、テストステロン産生酵素遺伝子の発現低下を伴うことから、このモデルマウスに対してさらに子宮内栄養制限を加えることで、遺伝的背景と環境因子の協調作用を検討することが可能である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (36件) (うち国際共著 2件、 査読あり 36件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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