研究課題/領域番号 |
20H00542
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
澤 芳樹 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (00243220)
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研究分担者 |
劉 莉 大阪大学, 医学系研究科, 特任准教授(常勤) (50380093)
李 俊君 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (10723786)
植村 寿公 大阪大学, 工学研究科, 特任教授 (60176641)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒトiPS由来心筋 / 組織構築 / デバイス / ファイバー |
研究実績の概要 |
重症心不全の治療法として細胞移植による再生治療が期待されている。申請者らはこれまでにiPS細胞由来心筋シート治療法を開発し、虚血性心筋症モデル動物を用いて有効性と安全性を確立したうえで、2018年に臨床研究の開始が承認されている。しかし現在の技術では、心筋シートの厚みは0.1mm程度であるため、約1cmのヒト心臓壁に細胞補充するには、更なる厚みを持ち、酸素・栄養供給に優れ、筋繊維の配向性を持ち、操作性が高い組織の形成が望まれる。本研究では、より高い心機能改善効果が期待できる“3D Mini Heart”を生体外で創成し移植に用いることを目的とする。 令和2年度の研究目標は心室壁を構成する心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞培養に適した立体構造を持つファイバーデバイスを作製・最適化して、ファイバーと一体化した血管内皮や結合組織の細胞を含み、重厚な心筋組織を構築することであった。具体的に、ナノファイバーの材料を選択し、物理的な評価を行った。ファイバーの層の数、層間距離、全体の厚みなどの項目を検討した結果、立体構造を持つ多層化ファイバーデバイスの作製するパラメータを見出した。また、細胞外質を添加することにより、それぞれの細胞の接着性を向上させる条件を決めた。さらに、心筋細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞の培養条件を検討した結果、更に播種細胞数、構成比率、純度及び各細胞の位置関係について最適化条件を見つけた。以上最適化した条件により、厚み1mm近く血管を含んだ組織の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画は生体内の心室壁構造を模倣し、心筋細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞を含んだ心筋組織を構築するデバイスの開発を目的とした。 予備実験の結果として、多層化ファイバーデバイスにECMを添加することにより、最適化した浮遊培養の環境で1mm以上重厚な心筋組織を構築できた。しかし、安定に同じ厚みの心筋組織に作成するにはまだ困難である。今年度心室壁を構成する心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞培養に適した立体構造を持つファイバーデバイスを作製・最適化して、ファイバーと一体化した血管内皮や結合組織の細胞を含み、機能的で重厚な心筋組織を構築する予定であった。 (1)ナノファイバーで心筋、線維芽細胞、血管内皮細胞を培養し、細胞表面・機械的特性・多孔性と空隙率・細胞分泌物・ガス交換等の分析比較を通じて、ナノファイバーの最適化を行う。実際に既に臨床使用されているFDA認証済の生体内分解材料(PLGA)を最優先に検討した結果、可能であり、ファイバーの最適化した作成条件も決定した。(2)ファイバーの層の数、層間距離、全体の厚みなどの項目を検討した。その最適化過程を通して、心筋組織化に最適なデバイスを作製するパラメータを見出した。(3)ファイバーを高機能化させるために、ファイバー表面にいくつECMとなるタンパク質でコーティングし、それぞれの細胞の接着性を向上させる条件を検討した結果、有効性を有することを確認できた。(4)心筋細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞を共培養する条件検討を行う。更に播種細胞数、構成比率、純度及び各細胞の位置関係について最適化条件を決めた。 全ての検討項目は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題1番困難だと予測する検討項目は酸素・栄養の供給が不十分であると移植後細胞の代謝や生着性低下の原因になるため、重厚な心筋組織の間に微細血管の構築や栄養供給システムの導入を行う予定である。 (1)生体外において、微細血管構造の構築になる最適化した培養条件を見出す。共培養での細胞比率を検討する。さらに、プロスタサイクリンアゴニストであるONO-1301は血管新生促進作用持つ化合物であり、ファイバーの中に包埋することによって体内再生因子を産生遊離させる可能性を検討する。これらにより移植後の細胞生存率、血管新生及び治療効果が向上することが期待される。(2)回転式三次元培養システムを導入し、最適化した培養条件を見出すために、装置の改良を行う。具体的には、培養容器の容量、容器の回転スピード、細胞へのダメージの有無、培地交換及び交換の必要性などについて検討する。(3)上記で構築した組織の機能評価として、MEA電極を用いた細胞外電位記録により、BPM(心拍数)、FPDなどの電気生理学的性質を従来の心筋細胞シートと比較する。またそれらの性質がファイバーによる配向性や組織の厚みによってどのように変化するかを検討する。組織の厚みと筋収縮力の相関を調べるため、収縮力を測定する予定。実際のヒト心臓組織(心室筋)に近い生理応答、薬剤応答、収縮力の向上を目指す。(4) qPCR法やマイクロアレイ、RNAseq、抗体染色などの分子生物学手法を用いて、各種心筋マーカー分子の発現パターンを定量化し、心筋組織化が筋繊維の成熟度やサルコメア発達や細胞間のgap junctionに関連する遺伝子の発現へ及ぼす影響を調べる。(5)前倒し、検討済の項目に関して、小動物心筋梗塞モデルへの移植を行う予定。
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