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2021 年度 実績報告書

乳がん治療刷新を目指した抑制因子活性化創薬と治療耐性機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 20H00543
研究機関徳島大学

研究代表者

片桐 豊雅  徳島大学, 先端酵素学研究所, 教授 (60291895)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワード乳がん / がん抑制分子 / 相互作用阻害ペプチド / 足場タンパク質 / 治療耐性 / がん抑制因子
研究実績の概要

がんの分子標的治療薬開発は、がん遺伝子産物の活性制御を狙ったものが主流だが、耐性獲得や不応性の存在、創薬フィージビリティの低さにより期待通りの効果を見込めないことが多い。研究代表者らは耐性獲得にも対応出来る新たな概念に基づいた既存の治療戦略として、がん抑制因子の抑制活性を利用した治療薬の開発を目指し、乳がん細胞にて多岐のがん関連シグナルの抑制活性を有するがん抑制因子PHB2(Prohibitin 2)に着目してきた。詳細な機能解析の結果、エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん細胞の細胞質において、我々が同定したがん特異的足場タンパク質BIG3がPHB2と結合し、その抑制機能を制御すること、さらに「BIG3-PHB2相互作用阻害ペプチド(stERAP)」を開発し、BIG3から解放されたPHB2の抑制活性を利用した新たな治療法を提唱した。
本研究では、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ(TNBC:ホルモン受容体、HER2陰性)乳がんおよび治療耐性乳がん細胞におけるBIG3-PHB2複合体の役割の解明およびstERAPの新規治療法としての可能性について検討する。
本年度は、昨年度明らかにしたHER2陽性乳がん細胞にてTGN(トランスゴルジネットワーク)に局在するBIG3-PHB2複合体の役割解明およびtrastuzumab耐性HER2陽性乳がん細胞にて、BIG3-PHB2複合体のTGNから細胞膜への局在移行の分子機構を明らかにした。続いて、HER2陽性乳がん臨床検体を用いた免疫組織染色によるBIG3の発現量およびPHB2リン酸化と予後との相関を確認した。さらに、TNBC細胞においてミトコンドリアに局在するBIG3-PHB2複合体が内膜と外膜を橋渡しするように複数のミトコンドリアタンパク質群と相互作用することを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(1)HER2陽性乳がん細胞におけるBIG3-PHB2複合体の役割解明
① HER2陽性(trastuzumab感受性)細胞では、BIG3-PHB2複合体はTGNに局在するが、stERAP投与によるBIG3-PHB2相互作用阻害にて、タンパク質の細胞外への分泌が阻害されることを明らかにした。② trastuzumab耐性細胞において、EGFRの過剰発現にてBIG3およびPHB2はそれぞれリン酸化をされ、その後小胞輸送関連因子によってリサイクリングエンドソームへ移行することを確認した。一方、EGFRの過剰発現によって、HEE2およびEGFR自身がエンドサイトーシスを通じて細胞内に取り込まれた後に、リサイクリングエンドソーム上にてBIG3-PHB2と相互作用し、その後細胞膜直下に移行されることを明らかにした。
(2)HER2陽性乳がん臨床検体を用いたBIG3-PHB2の予後相関解析
HER2陽性乳がん臨床検体を用いた免疫組織染色によるBIG3の発現量およびPHB2リン酸化と予後をはじめとした各種臨床所見との相関解析を行った。その結果、BIG3の高発現もしくはPHB2リン酸化を認めない症例は予後不良であることがわかった。特に、BIG3が細胞膜に局在する多くの症例はEGFRが高発現し、再発が認められた。
(3)TNBC細胞におけるBIG3-PHB2複合体の相互作用分子の同定
TNBC細胞のミトコンドリアに局在するBIG3-PHB2複合体は、内膜に局在するANT2/3および外膜に局在するVDACをはじめとした複数のミトコンドリアタンパク質群と相互作用することで内膜と外膜を橋渡しするように局在することを明らかにした。

今後の研究の推進方策

HER2陽性(trastuzumab感受性)乳がん細胞におけるBIG3-PHB2複合体の役割に解明については、TGNにおける相互作用分子の同定を通じた分泌制御機構の解明を進める。HER2陽性(trastuzumab耐性)乳がん細胞における治療耐性を引き起こす分子機構では、膜直下における相互作用分子の同定を通じたシグナル増強の分子機構の解明を進める。さらに、stERAP投与にてPHB2よりBIG3が解離した際のPHB2のリン酸化の意義解明について、stERAP投与時に、PHB2にリクルートされるタンパク質群の同定をすすめる。
さらに、BIG3高発現TNBC細胞におけるミトコンドリア局在型BIG3-PHB2複合体の役割解明について、ミトコンドリアのROS、膜電位への影響について経時的な変化の観察および、その相互作用分子への影響を通じて明らかにする。さらに、R4年度は、TNBCの抗腫瘍効果をin vitro, in vivoで検討する。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Functional genomics for breast cancer drug target discovery.2021

    • 著者名/発表者名
      Yoshimaru T, Nakamura Y, Katagiri T.
    • 雑誌名

      J Hum Genet.

      巻: 66 ページ: 927-935

    • DOI

      10.1038/s10038-021-00962-6.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The survival and proliferation of osteosarcoma cells are dependent on the mitochondrial BIG3-PHB2 complex formation2021

    • 著者名/発表者名
      Toki S, Yoshimaru T, Matsushita Y, Aihara H, Ono M, Tsuneyama K, Sairyo K, Katagiri T.
    • 雑誌名

      Cancer Sci.

      巻: 112 ページ: 4208-4219

    • DOI

      10.1111/cas.15099.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 乳がん治療刷新を目指した新たな創薬開発研究2022

    • 著者名/発表者名
      片桐 豊雅
    • 学会等名
      第137回日本病理学会中国四国支部学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] がん抑制因子活性化ペプチド創薬2022

    • 著者名/発表者名
      片桐 豊雅
    • 学会等名
      第17回日本がん分子標的治療学会TRワークショップ
  • [学会発表] トリプルネガティブ乳癌細胞のミトコンドリア構造・機能制御におけるBIG3-PHB2複 合体の病態生理的役割-癌細胞の脆弱性を標的とした治療法開発2021

    • 著者名/発表者名
      相原 仁, 吉丸 哲郎, 尾野 雅哉, 笹 三徳, 三好 康雄, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第44回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 日本人家族性乳癌家系の新規感受性遺伝子の解析2021

    • 著者名/発表者名
      松下 洋輔, 高橋 定子, 小松 正人, 清谷 一馬, 吉丸 哲郎, 三好 康雄, 本田 純子, 紺谷 桂一, 大住 省三, 笹 三徳, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      日本人類遺伝学会第66回大会 第28回日本遺伝子診断学会大会 合同開催
  • [学会発表] ミトコンドリアBIG3-PHB2複合体の脆弱性を標的にしたトリプルネガティブ乳癌治療法の可能性考察2021

    • 著者名/発表者名
      相原 仁, 吉丸 哲郎, 尾野 雅哉, 笹 三徳, 三好 康雄, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第80回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] HER2陽性乳癌のトラスツズマブ耐性獲得に対するBIG3-PHB2複合体の病態生理学的役割2021

    • 著者名/発表者名
      吉丸 哲郎, 松下 洋輔, 笹 三徳, 三好 康雄, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第80回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] SALL3のエピゲノム異常はトリプルネガティブ乳癌の薬剤抵抗性の一因となる2021

    • 著者名/発表者名
      松下 洋輔, 小松 正人, 清谷 一馬, 新沼 猛, 鈴木 拓, 吉丸 哲郎, 田嶋 敦, 井本 逸勢, 本田 純子, 古川 洋一, 中村 祐輔, 三好 康雄, 笹 三徳, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第80回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] トラスツズマブ耐性HER2陽性乳がんに対するBIG3-PHB2相互作用の標的治療薬としての可能性2021

    • 著者名/発表者名
      吉丸 哲郎, 松下 洋輔, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第25回日本がん分子標的治療学会学術集会
  • [学会発表] 新規がん抑制因子SALL3不活化はトリプルネガティブ乳癌の化学療法抵抗性に関与する2021

    • 著者名/発表者名
      松下 洋輔, 小松 正人, 清谷 一馬, 鈴木 拓, 吉丸 哲郎, 井本 逸勢, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第25回日本がん分子標的治療学会学術集会
  • [学会発表] トリプルネガティブ乳癌細胞においてBIG3-PHB2複合体は癌病態ミトコンドリアを安定制御する2021

    • 著者名/発表者名
      相原 仁, 吉丸 哲郎, 片桐 豊雅
    • 学会等名
      第25回日本がん分子標的治療学会学術集会

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公開日: 2022-12-28  

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