研究課題
本年度、肺発がん機構の理解を目的として、上皮内肺がん16例について、全ゲノム/RNAシークエンスデータを取得した。既知のがん遺伝子変異としては、EGFRやMET、BRAF遺伝子の変異、RET遺伝子融合が同定され、これらの遺伝子変異が上皮内がん形成に働くドライバー変化であることが明らかにされた。一方、TP53がん抑制遺伝子の変異は、上皮内がんでは認められず、進行がんのみに存在したことから、浸潤能獲得におけるTP53遺伝子失活の役割が明らかになった。進行肺がんと比べて、上皮内がんでの遺伝子コーディング配列内の点変異の数は同程度に生じていた。プロモーター変異、エンハンサー変異についても、その傾向は同様であった。一方、大規模構造変化については、進行肺がんと比べて上皮内がんで少ない傾向が見られた。全ゲノムシークエンスに加えて、長鎖シークエンスを並行することにより、大規模構造変化のリスト化を進めた。肺がんでみられるものを含めRET遺伝子の点変異について、NIH3T3細胞やBa/F3細胞を用いたTransforming assayを行った。この際、甲状腺がんでの既知ホットスポット変異M918Tを陽性コントロールとして評価したところ、当該変異よりもその力は弱いもののNIH3T3細胞やBa/F3細胞を形質転換させる変異が多数存在することを明らかにした。また得られた形質転換細胞の増殖能はRETキナーゼ阻害薬の投与により抑えられた。これらの変異体は、RETの下流分子の活性化を引き起こすことが293H細胞を用いた一過性発現試験で確認された。以上のことより、RET遺伝子の点変異は、肺がんなど、甲状腺がん以外のがん種の発がんに寄与することが示唆された。現在、キナーゼドメインだけでなく細胞外ドメインに存在する変異に解析範囲を広げ、活性化の評価を進めている。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、全ゲノム/RNAシークエンスデータの取得・解析やRET遺伝子変異の機能解析が順調に進捗している。その結果、早期の肺発がん機構が明らかになりつつあるとともに、RET変異による新規発がん機構が見いだされつつあるため、上記のように判断する。
本研究の目的は、新しいドライバー遺伝子変化を同定するとともに、ドライバー遺伝子変化を介さない症例も含め、肺発がん機構の全貌を明らかにすることである。そのため、点変異のみならず、Promoter変異やPromoter/enhancer swappingを生じる大規模構造変化をより詳細に追及する必要があり、長鎖シークエンス解析を積極的に取り入れることで、同定を進める。また、変異シグネチャー解析を行うことにより、肺発がんにおける変異負荷の全貌や原因となるDNA傷害についても追及する。また、RET遺伝子変異については、変異数を増大するだけでなく、精製たんぱく質を用いたアッセイなども合わせて行うことで、ドライバーがん遺伝子変化としての役割を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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