研究課題
上皮内肺がん17例、微小浸潤腺がん2例について、全ゲノム/RNAシークエンスデータおよび長鎖シークエンスデータを取得し、進行がんと比較することで、総合的に早期肺発がん機構のメカニズムの推定を行った。既知のがん遺伝子変異としては、EGFR、KRAS、MET、BRAF、HER2遺伝子の変異、RET遺伝子融合は、早期肺がん形成に働くドライバー変化であることが明らかにされた。一方、TP53やSMARCA2/4がん抑制遺伝子の変異は、上皮内がん、微小浸潤腺がんでは認められず、進行がんのみに存在したことから、TP53遺伝子失活は浸潤能等悪性度獲得に機能することが明らかにされた。進行肺がんの一部では、Hyper-mutator症例が見られるが、早期肺がんでは見られず、大規模構造変化については、上皮内がんと比べて進行肺がんで増加することが明らかとなった。一方、肺がんでみられるものを含めたRET遺伝子の各種点変異について、NIH3T3細胞やBa/F3細胞を用いたTransforming assayを行った。この際、甲状腺がんでの既知ホットスポット変異M918Tを陽性コントロールとして評価したところ、当該変異よりもその力は弱いもののNIH3T3細胞やBa/F3細胞を形質転換させる変異が多数存在し、それらは細胞外ドメインにも及ぶことが明らかになった。細胞外ドメイン変異は、恒常的な二量体化、ERK分子の活性化をもたらし、NIH3T3やBa/F3の形質転換細胞の増殖能はRETキナーゼ阻害薬セルパカチニブ、プラルセチニブの投与により抑えられた。以上のことより、RET遺伝子の点変異は、肺がんなど、複数のがん種の発がんに寄与し、治療標的分子となることが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
全ゲノム/RNAシークエンスデータ、長鎖シークエンスデータの取得・解析やRET遺伝子変異の機能解析が極めて順調に進捗している。その結果、早期の肺発がん機構がすでにほぼ解明されつつあるとともに、新規RET変異という新しい治療標的分子が見いだされつつあるため、上記のように判断する。
本研究の目的は、新しいドライバー遺伝子変化を同定するとともに、ドライバー遺伝子変化を介さない症例も含め、肺発がん機構の全貌を明らかにすることである。そのため、点変異のみならず、大規模構造変化をより詳細に追及する必要があり、長鎖シークエンス解析を積極的に取り入れている。また、今後は、コピー数変化やDNAメチル化を含め、各種ゲノムストレスの早期肺発がんへの関与について明らかにする。また、RET遺伝子変異については、キナーゼドメインと細胞外ドメインの両者を対象とし、引き続き精製たんぱく質を用いたアッセイなども合わせて行うことで、ドライバーがん遺伝子変化としての役割を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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