研究課題
本申請では、従前の「削って詰める」歯科臨床を、バイオミネラリゼーションを基軸とした生物学的なう蝕予防・治療へ大きく変換させるという理念のもとに、量子・X線ビームを応用した原子・電子レベルの超精密構造・機能解析によって、う蝕の発症および進行抑制に歯質構成元素が如何なるメカニズムで相互に作用しながら関与しているかを解き明かすことを目的としている。先端的な量子・X線ビーム技術を用いて、歯質内の元素の濃 度分布や化学結合状態をイメージングすることで、う蝕予防および進行抑制のメカニズムについて元素レベルでの深い理解を構築し、効果的な「削らない」う蝕予防・治療技術および材料開発を飛躍的に発展させることを企図している。本年度はin vitroにて、ヒト大臼歯のエナメル質および象牙質にCa、 F、Sr、Zn、Cu、Mgの配合率を調整したセメント材を1-3ヶ月間作用させた後、口腔をシミュレートした自動pHサイクルによる脱灰負荷試験を実施した。 歯質構成元素の抗う蝕性の評価は、試験前後でのμCTによるミネラル密度の変化に続いて、PIXE/PIGE法、X線結晶回折、X線光電子分光法によってイメージングし、元素分布・濃度および化学結合を分析して、エナメル質および象牙質の耐酸性獲得と再石灰化促進に元素が果たすメカニズムを検討した。その結果、象牙質表層に取り込まれたFおよびZnイオンが耐酸性向上に寄与しており、とりわけZnイオンは、象牙質の結晶構造を変化させることなく、4配位結合で取り込まれていることがわかった。これは、象牙質中で新たなZn-O共有結合が形成されることによって、耐酸性向上につながったことを強く示唆する結果である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どおりin vitroにて、歯質構成元素の抗う蝕性の評価を、試験前後でのμCTによるミネラル密度の変化に続いて、PIXE/PIGE法、X線結晶回折、X線光電子分光法によるイメージングにて実施した。その結果、象牙質表層に取り込まれたFおよびZnイオンが耐酸性向上に寄与していることを明らかにした。とりわけZnイオンが象牙質中でZn-O共有結合が新たに形成されて、耐酸性向上につながったことを強く示唆する新しい知見を得ることができた。
本年度の結果を踏まえて、in vitroにてZn以外の歯質構成元素の抗う蝕性の評価を、試験前後でのμCTによるミネラル密度の変化に続いて、PIXE/PIGE法、X線結晶回折、X線光電子分光法によってイメージングし、元素分布・濃度および化学結合を分析する。加えて、Znの象牙質コラーゲン強化作用についても、Znを取り込ませた象牙質にコラゲナーゼを作用させる耐久試験を実施して、Znのコラーゲン崩壊抑制効果を評価する。さらに、in vitroにて確立した複合的な手法を用いて、in vivoにてラットう蝕治療モデルを作成し、実際のう蝕環境を再現した口腔において、歯質構成元素の抗う蝕性の評価を包括的に実施する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Polymers
巻: 12 ページ: 937
10.3390/polym12040937
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10.1371/journal.pone.0239660.
Japanese Dental Science Review
巻: 56 ページ: 155-163
10.1016/j.jdsr.2020.09.005