研究課題
本研究は、従前の歯科臨床をバイオミネラリゼーションを基軸とした生物学的なう蝕予防・治療へと大きく変換させるという理念のもと、量子・X線ビームを応用した原子・電子レベルの超精密構造・機能解析によって、う蝕の発症および進行抑制に歯質構成元素が如何なるメカニズムで相互に作用しながら関与しているかを解き明かすことを目的としている。2020年度から2021年度は、in vitroにてヒト大臼歯の象牙質にCa、 F、Sr、Zn、Cu、Mgの配合率を調整したセメント材を1-3ヶ月間作用させた後、歯質構成元素の抗う蝕性の評価を、試験前後でのμCTによるミネラル密度の変化に続いて、PIXE/PIGE法、X線結晶回折、X線光電子分光法によ ってイメージングし、元素分布・濃度および化学結合を分析した。その結果、象牙質に取り込まれたZnがOと共有結合を形成することで、歯質の耐酸性が向上することがわかった。2021年度から2022年度は、in vitroの方法を、in vivoラットう蝕治療モデルに作用させて、歯質構成イオンがエナメル質および象牙質に取り込まれる様相を、μCTによるミネラル密度の変化とPIXE/PIGE法にて検索する方法を確立した。まず、う蝕治療モデルの作成にあたっては、う蝕の部位および進行度を精確にコントロールすることができた。さらに、μCTによるミネラル密度計測では、実験前後の状態をin vivo条件での測定条件を確定し、PIXE/PIGE法にてin vivoう蝕モデルのマルチ元素の動態を経時的に測定することに成功した。さらに、う蝕病変の範囲をナノインデンテーションで規定し、う蝕の深度とイオン動態の相関を検討した。その後、浸透したイオンと耐酸性の相関をμCTおよびナノインデンテーション・PIXE/PIGE法にて検討した。
2: おおむね順調に進展している
昨年までに確立したin vitroモデルにおいて、抗う蝕効果を認めるマルチイオンの評価を、in vivoう蝕治療モデルにて完全に再現することができた。これまでin vitro の実験に用いてきた手法であるPIXE/PIGE法を用いてF、ZnならびにSrイオンの象牙質中の浸透深度および浸透濃度を測定する解析手法を確立できた。とりわけ、ラットを用いて実験前後の歯質をin vivoにおける測定条件を確定し、PIXE/PIGE法にて世界で初めてin vivoう蝕モデルにおいてマルチ元素の動態を経時的に測定することに成功した。さらに、う蝕の進行度を従来のミネラル密度と病変の進行度での評価に加えて、in vivo試料をナノインデンテーションを実施することで、客観的かつ精密にマルチイオンの抗う蝕効果を評価することができた。
2023年度は、象牙質う蝕の深度・範囲とイオン分布との相関を探索するため、象牙質う蝕の状態をラマン分光分析・SEM観察にて多角的に把握する手法を探索する。まず、イオン分布と象牙質耐酸性との相関を探索するため、in vitroおよび in vivo実験結果を総合的に比較・統合し、実験の妥当性を検討する。in vitroではう蝕治療モデルより得られたPIXE/PIGEによりF、Zn、およびSrの取り込みが認められた試料を脱灰溶液に浸漬し、μCTとナノインデンテーションにて脱灰量を観察する。2022年度までに構築したin vivo実験の発展形として、う蝕治療モデルラットを長期飼育し、長期におけるう蝕病変内のミネラル密度をμCTにて経時的に評価し、得られた試料の元素分布をPIXE/PIGEにて取得し、耐酸性と元素分布の相関を探索する。in vivoう蝕治療モデルにおいて、マルチイオン含有材料の象牙質う蝕に対する生体での有用性を量子ビームを応用した解析法によって評価することで、ナノからマクロレベルでのイオンの抗う蝕性への関わりを評価する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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