研究課題/領域番号 |
20H00558
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 博史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (30194640)
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研究分担者 |
柏木 公一 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 国立看護大学校 (20334378)
中口 俊哉 千葉大学, フロンティア医工学センター, 教授 (20361412)
黒田 嘉宏 筑波大学, システム情報系, 教授 (30402837)
金井パック 雅子 関東学院大学, 看護学部, 教授 (50204532)
井野 秀一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 副研究部門長 (70250511)
藤原 道隆 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院教授 (70378222)
足立 吉隆 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (70407229)
江頭 正人 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (80282630)
松井 邦彦 熊本大学, 病院, 教授 (80314201)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 臨床研修 / 多重課題 / 意思決定 / バーチャルリアリティ / ストレス / 生体反応 / モデリング |
研究実績の概要 |
本研究は、現実世界では訓練困難な臨床現場の多重課題を仮想世界に再現し、体験者の行為とヒューマンファクターデータ解析をもとにした多重課題における意思決定要因の特定と教育訓練や臨床現場でのナビゲーションにつながる意思決定支援モデルの作成を目的としている。初年度は、多重課題訓練システムと多重課題訓練時生体情報測定システムの開発を行なった。看護の多重課題訓練シナリオとして病棟での術後患者とショック患者への処置、医師が当直した際の多重課題シナリオの3ケースを作成した。シナリオをもとに仮想世界で訓練に必要なベッドやモニターからなる仮想病室を作成し、3名の仮想患者と実際の人を用いたリアルアバターとして医師役2名と若年者1名を作成した。さらに、実写VR作成用に360度撮影装置を導入し、外来や病棟での実写映像を用いた多重課題の仮想訓練を構築できるシステムを構築した。多重課題訓練時生体情報測定システムの開発:多重課題の訓練時に測定する生体情報として脳血流量測定のためにNear-infrared spectroscopy(NIRS)、自律神経反応測定装置として心拍数と皮膚抵抗測定装置、視線追跡可能なHead Mounted Display(以下HMD)を用いた体験システムを構築した。NIRSでは特に意思決定に重要な役割を演じていると言われている前頭前野付近の脳血流の変化を測定できることを確認した。バーチャルで空気環境を高精度に再現することや多重課題において情動を誘導ための非接触の皮膚感覚提示として温度感覚提示について検討し、温度センサにより温度変化を周期的に変化することができることを確認した。初心者と熟達者との意思決定プロセスの差の解明に必要となる生理・心理・行動データの収集に関する基礎的検討を行った.研究成果は、英文論文19編、和文2編、学会発表17件、優秀発表賞1件として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画の工程表の多重課題の選定と多重課題のシナリオ作成として予定通り、看護の多重課題訓練シナリオとして病棟での術後患者とショック患者への処置、医師が当直した際の多重課題訓練シナリオの3つの場面を選定し、多重課題シナリオを作成した。また、仮想世界と登場人物の作成として3名の仮想患者を作成し、実際の人を用いたリアルアバターとして医師役2名と若年者1名を作成した。臨床医学分野での多重課題の選定には内科学分野は分担研究者の江藤、松井、外科学分野は藤原、看護学分野は金井、柏木を中心に既存文献や報告書、書籍等を参考に選定を行っている。多重体験シナリオは基本被験者が多重課題を仮想体験する1人称VRを原則とし、安全管理上重要と思われる多重課題を初年度3例作成した。また、仮想世界と登場人物の作成:多重課題体験シナリオの内容に応じた仮想世界(外来や病棟、救急室、ベッド、診察用具、シャーカステン、心電図モニターなど)の設計と仮想患者を作成した。 ヒューマンデータ取得システムに関する研究では、HMDとPCを接続し、体験者が仮想世界のどの世界を観察しているのか頭部搭載型ディスプレイに表示されている動画データを取得するシステムを構築した。また、視線検出が可能なヘッドマウントディスプレイであるHTC Vive Pro Eyeを導入し,仮想空間上に外来診察室を再現した.コントローラ操作で,仮想オブジェクトの把持や,移動を実装した.またSRanipal SDKを活用して安定した視線計測を実装した. 体験者が仮想世界の中の何に注視しているのかなど視点追跡データを取得できることを確認した。脳の前頭前野は人間の意思決定に重要な役割、特に複数課題の切り替えに関与しているといわれている。脳波計測はVR機器と動作によって測定困難であるため経皮的脳血流量測定できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
仮想世界の設計に関する研究:本年度は、多重課題を体験する仮想世界のシナリオを5例追加し、CGで作成した仮想世界の質の向上として環境音や会話、仮想オブジェクトや仮想患者や医療者のリアリティを高め、てんかん発作や呼吸苦などを仮想患者でリアルに表現するアニメーションを追加する。CG-VRによる研修とともにコロナ禍が落ち着いた時点で360度カメラをもちいて臨床現場を模した臨床研修センター等で俳優に患者役や医療者役をシナリオに応じて演じてもらう実写VRによる多重課題研修アプリケーション開発の基礎的検討を行う。多重課題の中で役者を用いた実写VRが有用なコンテンツと演じることが困難なコンテンツ(てんかん発作や小児救急など)にはCG-VRの利用の適正についての基礎的検討をおこなう。 多重課題体験時のヒューマンデータ取得システムに関する研究:視界データと視点追跡データについては、昨年度体験者が仮想世界のどの構造物や仮想患者の部位を観察しているのかについて頭部搭載型ディスプレイに表示されている動画データを取得し分析できることを確認した。本年度はそのデータの安定的取得法と時系列解析等の適切な解析法についての検討を行う。さらに、仮想世界の医療機器の操作や仮想患者の触診体験についての基礎的検討も行う。現状では、仮想世界で点滴やモニターのスイッチを押すような操作が主となるが触覚提示装置を用いて触診などの実臨床上重要な判断を要する診察体験の実現性についても検討をおこなう。多重課題の仮想体験中の前頭前野の脳血流量の測定データの取得とその解析法についての検討を行い、初心者と熟達者との前頭前野の脳血流の変化の違いや多重課題体験時の自律神経系関連データの取得と、初心者が多重課題に当たったときの緊張について皮膚抵抗や心電図のRR間隔との関係性についての基礎的検討を行う。
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