研究課題
研究代表者らは痛風の主要病因遺伝子ABCG2を同定し、さらにABCG2の解析を基に高尿酸血症の新規臨床分類を提唱した。また、世界に先駆けて明確に臨床診断された痛風のゲノムワイド関連解析(GWAS)や世界最大規模の尿酸値のGWASなどを報告し、数々の新規遺伝子座の同定に成功してきた。これらの日本発の研究を通じて、痛風・高尿酸血症は多因子疾患の中でも特に遺伝要因が強く、ゲノム個別化予防・医療の重要なモデル疾患となり得ることから、さらなる研究を進めている。本研究計画の3年度目にあたる2022年度においては、2021年度までに得られた成果を発展させるとともに、公開した成果に関する社会に向けた発信を促進した。前者については、OAT10が尿からの尿酸再吸収を担う生理的に重要な尿酸輸送体であることを実証し、報告した。また、臨床診断された痛風症例のみを用いた遺伝率(遺伝子変異による痛風発症の説明率)について世界で初めての報告をすることにも成功した。後者の社会に向けた発信については、たとえば、2021年度末に報告した「コーヒーを飲むと痛風のリスクが下がる」という内容について、第33回日本疫学会学術集会などでの発表を行ったところ、メディアに取り上げられるなどの大きな反響を得た。また、第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会においては、尿酸輸送体遺伝子ABCG2の多型解析を通したゲノム個別化看護の可能性に関する検討について、これまでの成果をまとめて発表した。優秀演題賞を受賞したことからも当該演題は大きな注目を集めたと判断でき、現在、論文投稿に向けて準備を進めている。2022年度までに得られた成果に基づき本研究がさらに発展していくことで、多因子疾患のゲノム個別化予防における先駆的な例が提示されることになると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、1)症例対照研究による痛風の新規関連遺伝子の対策と同定、2)コホート集団を対象とした尿酸関連遺伝子の探索と分子機能評価、3)痛風と高尿酸血症の遺伝的背景の差異の探索と検証、4)尿酸関連遺伝子を対象とした脳卒中やパーキンソン病の分子遺伝疫学的解析、5)国際コンソーシアムを活用体制の構築・維持、6)リスク評価法の確立によるゲノム個別化予防・医療への応用・提言、という6項目についての研究を予定している。2022年度においては、このうち1、2、3、5、6について成果を報告することができた。昨年度に続いて、当初の予定より早いペースで研究が進んでおり、2023年度中にも新たな成果を論文発表できる見込みである。なお、すでに得られている成果の一部については、学会発表やプレプリントなどで先行的に公開されている。さらに、他の項目においても引き続き研究を進めていることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
最終年度となる2023年度においては、2022年度までに取り組んできた内容を引き続き発展させるほか、他疾患の分子遺伝疫学的解析にも引き続き取り組み、成果をまとめる予定である。特に、ゲノム個別化看護の可能性については、看護学の研究者を含む研究分担者との解析やディスカッションを経て、一定のエビデンスを含む形で論文発表ができる目途がついている。そのため、2023年度における重要課題のひとつとして注力していく予定である。また、2022年度に遺伝率に関する研究を取りまとめる過程で、病型分類ごとに遺伝率を検討した結果、腎尿酸排泄低下型では33.2%、腎尿酸負荷型では35.5%、混合型では30.9%と、いずれも遺伝的要因の影響が強いことを示す結果も得られた。国際コンソーシアムでの活動を通じて、血清尿酸値や痛風リスクと関連する遺伝子座を350以上同定することに成功していることを踏まえ、遺伝要因の影響に関するさらなる理解と社会への還元を目指した研究を展開する予定である。個人差に応じた医療や予防に、看護、薬剤指導、栄養指導などの観点からも取り組むことで、より適切なゲノムオーダーメイドの医療・予防サービスの提供が可能になることが期待できる。引き続き本研究をさらに発展させることでその一助とできるよう、研究分担者・協力者との連携を深め、多角的な視点から研究を進める計画である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Rheumatology
巻: - ページ: -
10.1093/rheumatology/keac597
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http://ndmc-ipb.browse.jp/member.shtml