研究課題
本研究では、持久性運動により発現増加を示すマイオカインとその関連分子に着目し、これらの分子の加齢関連疾患(骨格筋障害、動脈硬化、虚血性心疾患)における役割を個体レベルで明らかにし、その詳細な分子機構(骨格筋系・心血管系制御機構)を細胞レベルで解明する。現時点で以下のような実験の結果を得ている。1.遺伝子欠損マウスと対照マウスに対して骨格筋障害モデルを作成し、骨格筋の表現型を解析した結果、骨格筋保護的に作用するマイオカインとしてNDNFを見出した。骨格筋へのNDNF蛋白の局所投与は骨格筋障害を改善した。また、培養骨格筋細胞においてNDNF蛋白の添加は細胞萎縮を抑制し、Aktシグナルが関与していた。従って、NDNFは骨格筋萎縮に対して防御的に作用するマイオカインであると考えられた。2.遺伝子欠損マウスを用いて骨格筋障害モデルを作成し、骨格筋保護的に作用する別のマイオカインも見出した。このマイオカインの遺伝子過剰発現マウスやアデノウイルス発現系を用いて、骨格筋障害に対する効果も解析中である。また、このマイオカインのリコンビナント蛋白の培養骨格筋細胞への添加は細胞萎縮に対して防御的に作用した。このマイオカインの骨格筋細胞保護に関わる分子やシグナル伝達経路を解析中であり、リン酸化シグナルの候補が明らかになりつつある。3.このマイオカインの遺伝子欠損マウスを動脈硬化発症マウスと交配し、二重変異マウスを作成済みであり、マイオカインの動脈硬化における役割を解析中である。4.このマイオカインの遺伝子欠損マウスに対して、心筋梗塞モデルを作成し、心筋リモデリング、心不全状態を評価して、マイオカインの虚血性心疾患における役割を解析中である。予備検討ではこのマイオカインが心筋リモデリングに保護的に作用していた。5.骨格筋萎縮により発現変化を示すマイオカインをスクリーニング中である。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、遺伝子欠損マウスあるいはリコンビナント蛋白を用いた解析にて、骨格筋保護作用を有する2種類のマイオカインを見出している。1つ目のマイオカインであるNDNFは骨格筋萎縮に対して防御的に作用することやそのシグナル機序も明らかとなっている。もう一つのマイオカインは培養系において骨格筋細胞保護的に作用しており、シグナル伝達経路も明らかになりつつある。従って、これらマイオカインの骨格筋機能に対する作用は細胞レベルと個体レベルで明らかになりつつある。これらの達成度は当初の研究計画の予定を考えると順調である。一方で、マイオカインの心血管疾患(動脈硬化と虚血性心疾患)に対する作用の解析は進行中であるが、マウスの交配に要する時間や長期にわたる解析時間が必要であることを考慮するとこれらの達成度も順調であると考えられる。
加齢関連疾患(骨格筋障害、動脈硬化、虚血性心疾患)におけるマイオカインの役割と分子機構を明らかにするため、前年度までの研究成果を踏まえて、以下の解析を行う。1.前年度までに、遺伝子欠損マウスと培養骨格筋細胞を用いた検討にて、骨格筋保護的に作用するマイオカインNDNFと2つ目のマイオカインを見出した。今後は、2つ目のマイオカインの遺伝子過剰発現系とリコンビナント蛋白などを用いて、マイオカインの骨格筋障害に対する作用を解析する。さらに、骨格筋保護に関連する詳細なシグナル伝達機構を解明する。2.現在進行中である、遺伝子欠損マウスに対しての動脈硬化モデルと心筋梗塞モデルの作成を継続し、マイオカインの心血管疾患(動脈硬化、虚血性心疾患)における役割とシグナル伝達機序を解明する。
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