研究課題/領域番号 |
20H00574
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 克彦 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (80344597)
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研究分担者 |
原 太一 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00392374)
川西 範明 千葉工業大学, 先進工学部, 准教授 (00706533)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳 / うつ / バイオマーカー / BDNF / 機能性食品 |
研究実績の概要 |
【目的】脳由来神経栄養因子BDNFは神経細胞の発生、成長、維持、再生を促進させるが、 最近の研究からうつやアルコール依存において血中BDNF量が減少することが示されており、うつ病のバイオマーカーや治療標的として注目されている。また、BDNFは脳以外の腸管粘膜においても発現することが明らかになっており、脳腸相関の観点から食による腸由来BDNFの制御が脳機能制御に重要な役割を果たす可能性がある。近年の研究から食品成分によって腸細胞から分泌されるエクソソームにより脳機能が制御されることが示唆されている。そこで本年度の研究では、腸細胞に作用しBDNFやエクソソームの分泌を促す食品因子を同定することを目的とした。 【方法】BDNFの分泌に関する研究では、腸細胞のモデルであるCaco2細胞に19種類の食品成分を作用させ、BDNFの分泌に及ぼす影響をELISAを用いて細胞培養液中のBDNFタンパク質量を測定した。エクソソーム分泌に関する研究では、腸細胞のモデルであるCaco2細胞に19種類の上記実験と同じ食品成分を作用させ、エクソソーム膜局在タンパク質であるCD9(エクソソーム量のマーカータンパク質)の分泌に及ぼす影響をELISAを用いて細胞培養液中のエクソソーム量を測定した。 【結果と考察】BDNF分泌に関する研究では、本年度に検討した食品成分について、BDNFの分泌を促進するものは同定されなかった。また、エクソソーム分泌に関する研究では、CD9をマーカーとしたエクソソーム分泌に対する食品成分の影響を検討した。その結果、4種の成分がエクソソーム分泌を促進することを明らかにした。現在、この作用に関して特許出願の準備を進めている。また、関連する情報収集のために総説を作成し、論文発表も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
食と腸・脳臓器連間による脳機能制御機構の解明と機能性のバイオマーカーを探索するため、腸由来BDNFおよびエクソソーム分泌に関わる食品成分のスクリーニングを行えた。また運動による骨格筋由来エクソソームの分泌についても実験を実施し、運動トレーニングにより分泌されるエクソソームの機能解析と生理的役割の解明を進めつつある。具体的には、マウスから採取した腓腹筋を細切して、培地中で24時間培養し、培養上清中のエクソソームから抽出したRNAからmiRNAシーケンス用のライブラリーを調製して、大規模並列シーケンサーにより塩基配列情報を取得した。シーケンスデータはmiRBaseを参照としたマッピングによりmiRNAを検出して、リード数のカウントおよび差次的発現解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
BDNFはL-カルノシンやいくつかのポリフェノールによって分泌が亢進することが報告されていることから、今後ジペプチドやポリフェノールに着目したスクリーニングを行うことで、BDNFやエクソソームの分泌に影響する食品成分の同定に繋げたい。また、エクソソーム中には、他の細胞機能の制御に関わる遺伝子制御核酸(マイクロRNA)やタンパク質が含まれており、これらの情報を解読することで食品成分による脳機能制御の分子機構を理解するための重要な分子情報を得ることが可能である。今後、分泌されたエクソソームの神経細胞や脳機能への影響、内包物の分子情報を解析することで、脳機能や病態との関連を明らかにしていきたい。
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