研究課題
認知症の発症初期に低下する「認知的柔軟性」の維持に有用な食品に繋がる知見の獲得を目標に、腸内細菌叢由来代謝産物と消化管ホルモンを介した脳腸相関(腸内細菌叢-ホルモン-脳システム)の分子基盤解明を目指し、初年度計画に従って進めた。具体的には、消化管内分泌細胞の株化モデル細胞を保有済み腸内細菌叢由来代謝産物ライブラリーの化合物で刺激し、ホルモン分泌を誘導する化合物をスクリーニングした。当初より最有力候補として着目していたポリアミンもその作用を有することが確認でき、現在、in situ試験でのホルモン分泌確認ステージへと進展している。ポリアミンの大腸上皮細胞(消化管内分泌細胞も含まれる)の増殖促進作用に真核生物翻訳伸長因子 eIF5Aのハイプシン化が関与していることを認め、既存の知見と合わせ論文発表した。脳側の分子基盤の解明への取り組みに関しては、タッチパネル装置で認知的柔軟性を獲得したマウスの脳を回収し、遺伝子発現解析を実施中である。脳腸相関に関与する細胞の活動をin vivoイメージングでモニターするため、可視化センサー分子を発現しているマウスの作製を進めた(継続中)。最終年度に計画しているのマウス評価試験の準備も計画通り進めた。自然加齢マウスの認知的柔軟性の低下が生じる月齢探索試験を実施し、現在、得られた行動データを詳細に解析中である。我々が立ち上げたタッチパネル装置における認知的柔軟性評価タスクに関する論文は執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
COVID-19の影響は若干受けたものの、各機関で感染予防ルールを確立し、影響を最低限に留めてほぼ予定通りの実験成果を得られたから。
概ね順調に進展しているため、当初計画にほぼ準じて進めていく。特に、消化管ホルモン内分泌誘導作用が確認されたポリアミンを軸に、主として以下の実験を進める。(1)in situ試験、in vivo試験でポリアミンのホルモン分泌作用を確認するとともに、消化管内分泌細胞の株化モデル細胞を用いて内分泌メカニズムの解明を目指す。(2)生体個体レベルで、腸内細菌由来ポリアミンを介した脳腸相関の経路を推定するため、ポリアミン産生菌/非産生菌単独定着ノトバイオートマウスを作製し、腸組織および脳組織をオミクス解析し、両組織で生じている現象を捉える。(3)初年度に得た自然加齢マウスの月齢別試験の行動データを詳細解析し、認知的柔軟性低下モデルとして最適な月齢を見出すと共に、プロバイオティクス等を用いた認知的柔軟性評価試験の予備検討を行う。並行して、可視化センサー分子発現マウスの作製を継続すると共にそれを用いた解析技術の確立を目指す。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: 2105
10.1038/s41467-021-22212-1