研究課題/領域番号 |
20H00606
|
研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
八木 哲也 福井工業大学, 工学部, 教授 (50183976)
|
研究分担者 |
林田 祐樹 三重大学, 工学研究科, 教授 (10381005)
末松 尚史 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30779517)
武内 良典 近畿大学, 理工学部, 教授 (70242245)
廣瀬 哲也 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70396315)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 脳刺激型人工視覚 / ニューロモーフィック網膜 / 画像情報圧縮 / 画像情報通信 / 低消費電力 / 光覚シミュレーション / 心理物理実験 |
研究実績の概要 |
人工視覚は、先端電子デバイス視覚を失った人の視覚を部分的にも再建する未来医療である。人工視覚の実現には、システムの小型化と低消費電力化が必要である。このために本研究では、網膜神経回路の情報処理と視神経を介した視覚情報の通信様式を、脳刺激型人工視覚デザインに応用する。このことにより、体外の視覚情報圧縮モジュールと体内に埋植された脳刺激制御モジュールの間の通信量を格段に効率化することが可能となり、体内モジュールの消費電力(発熱)を大きく削減できると期待できる。2020年度は、新型コロナ問題による半導体需給のひっ迫により、集積回路設計計画の一部が遅延し、2021年度に繰り越した。以下、この繰り越し分を含め研究実績を記す。 1.本研究室で開発したニューロモーフィック網膜(網膜の機能と構造を集積回路化した知能視覚センサー。以下NM網膜と記す)を、より視神経の応答に近い出力が得られるように改良した。この改良により、視野中の静止対象、動対象の両方に対応できるようになった。 2.体内および体外モジュールのコアとなる制御プロセッサと情報圧縮回路を集積化するために、情報圧縮アルゴリズムの開発、アルゴリズム実現の回路設計、シミュレーション評価を行った。情報圧縮アルゴリズムに関しては、視神経のスパイク応答(視覚事象にロックされたパルス出力)を効率的に圧縮、通信する手法を考案した。このアルゴリズムを実装する回路のシミュレーション解析の結果、体内外モジュールの通信量を大きく減らすことが可能であることが確認できた。当初2020年度内に情報圧縮部のレイアウト(外注)まで完了する予定であったが、新型コロナ問題のためレイアウトは予算を繰り越して2021年度に完成させた。レイアウト回路は、画像により64x64画素の通信に対応できるフルサイズである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題研究では、人工視覚実現に向け4つの研究実施計画を立てている。①人工視覚の入力部として既存のNM網膜に改良を加える、②網膜の出力である視神経における視覚情報表現を解析し、その情報圧縮アルゴリズムと通信法を人工視覚に応用する。③NM網膜を用いた人工視覚が再建する光覚パターンを、実時間でシミュレートするシミュレータを開発し、心理物理実験によってその有用性、改良点を精査する、④視神経の情報通信機能を模倣した体内外モジュールの集積回路化、である。①、③においては計画どおり順調に進んでいる。②の視神経の情報表現と通信法の開発は、NM網膜を用いることによって当初の予想以上の成果が得られた。特にNM網膜の出力パルス群を、デジタル情報圧縮・通信法によって体外モジュールから体内モジュールへと送るアルゴリズムは、人工視覚のみならずIoTインフラストラクチャ―の根幹となる画像情報通信技術としても応用可能であり、本研究成果の波及効果として大きなポテンシャルを有しているものと考えている。④の集積回路設計・製作については、コロナ渦の半導体需要切迫により、レイアウト外注先の確保および、試作スケジュールの確定に大きな障害があり、半年ほどの遅れが生じた。この繰り越されていた情報圧縮アルゴリズムの集積回路設計については、TEGチップの作成を飛ばすことによって進捗を図った。その結果、繰り越し予定どおりに2021年度内に回路レイアウトを終えることができた。完成したレイアウトは、64x64画素の最終目標サイズである。今後は予算と研究時間を計画④に集中させていく予定である。そのために2021年度後半から、①と③の課題を実行する分担研究室として愛知淑徳大学と九州工業大学のグループを加える。またコロナ問題により特に海外での学会発表等による成果発信が遅れているが、今後、研究成果の国際的発信に力を入れていく。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの研究で、本研究で提案したNM網膜を用いた脳刺激型人工視覚の構想は、当初の予想以上に合理的かつオリジナリティの高い成果が得られるという感触を得ている。体内・体外モジュールの集積回路設計・製作については、新型コロナ渦の半導体需要切迫問題により遅れ気味であるが、フルサイズの集積回路レイアウトまでは完了しているので、早急にファウンドリーを用いてチップ製造にあたる。遅れ気味の体内外モジュールの集積回路開発により研究時間をに集中させるため、2021年度後半よりより視覚心理物理実験およびNM網膜改良と集積回路のインターフェース開発のため、新しい分担者(それぞれの課題に対し愛知淑徳大学と九州工業大学)を加える。視覚心理実験では愛知淑徳大学チームを中心として、光覚パターンのシミュレーションと視認性評価を行っていく。特に人工視覚が有用であると期待されている、失明者の人工視覚ナビゲーションに必要な視覚野埋植電極の数、電極配置についてシミュレータを用いた心理物理実験評価を行う。NM網膜の改良においては、代表者研究室を中心に九州工業大学チームと大阪大学チームの共同で行う。特に九工大チームは、NM網膜の出力画像を体内外モジュールへと送るときのインターフェースの開発を実行する。また大阪大学チームとは、体内埋植モジュールへの給電法についても共同開発に着手する。体内外モジュール間の皮膚を通した通信試験については、ネズミを用いた動物実験の環境を整える(三重大学チーム)。成果の発信については、まずは昨年度までに開発した新しい画像情報圧縮・通信法を特許申請し、その後順次国際会議等で発表していく。また2020年度までに実施した、視覚野電気刺激効果に関する動物実験の成果をまとめて国際学会で発表するとともに、論文として国際誌に投稿する。
|