研究課題/領域番号 |
20H00606
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研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
八木 哲也 福井工業大学, 工学部, 教授 (50183976)
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研究分担者 |
林田 祐樹 三重大学, 工学研究科, 教授 (10381005)
武内 良典 近畿大学, 理工学部, 教授 (70242245)
廣瀬 哲也 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (70396315)
石井 和男 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (10291527)
高橋 啓介 愛知淑徳大学, 健康医療科学部, 教授 (80236273)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 視覚再建 / 人工視覚 / 皮質電気刺激 / ニューロモーフィック網膜 / 低消費電力 / 画像情報圧縮 / 画像情報通信 / 光覚シミュレーション |
研究実績の概要 |
2021年度の当初の計画では、<課題3. 体内埋植モジュールの開発>において、体内モジュールのコアとなる制御回路の集積回路チップ製造を行い、その評価ボードまで製作する予定であった。しかしながら集積回路の回路設計、シミュレーションおよびレイアウトまでは完了したが、資材入手困難の理由により、チップの製造・パッケージングおよび評価ボードの製作は間に合わず、2022度に計画を繰り越していた。この繰り越しに関し、予定どおりファウンダリー(TSMC)を通して、集積回路チップを完成させた。またこの集積回路チップの動作を評価するボードも作成し、この評価ボードを用いて、製造した集積回路チップの動作確認を行なった。その結果、チップの動作は良好であることが分かった。引き続き、FPGAにより製作したインターフェイスを用いて集積回路チップと既存のシリコン網膜との接続を行なうこと、また無線によるモジュール間の通信実験に向けて、必要となる周辺回路の試作を行っている。<課題1 視神経の情報符号化・通信アルゴリズムの人工視覚への応用>については、昨年度までに記録したマウス網膜を用いた生理学実験の視神経応答から、視神経から発生するスパイク電位(電気的パルス)がコードする情報の解析を進めている。<課題2.事象駆動型スパイク人工網膜の開発>については、既存のシリコン網膜応答を視神経の持つ時間フィルター特性を持ったスパイク電位時系列に変換するアナログ回路を考案した。<課題4. 光覚シミュレータを用いた心理物理学実験評価>については、一次視覚野刺激により惹起される光覚パターンを模擬するシミュレータを発展させ、電極配置と光覚パターンの関係を解析できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1の「視神経の情報符号化・通信アルゴリズムの人工視覚への応用」に関しては、アルゴリズムの開発において当初の計画以上に進展があった。すなわち開発したアルゴリズムは人工視覚以外の情報機器の通信にも広く応用できる可能性があり、実験を分担者(九州工業大学)と行っている。課題2の「事象駆動型スパイク人工網膜の開発」においては、スパイク発生回路の基本構造を考案し、シミュレーション解析を行っているが、集積回路化を目指したときには、容量成分を如何に抑えるかの問題が残っている。このためシリコン網膜出力を制御モジュールにインターフェイスする回路の開発に当初計画との遅れが生じている。課題3の「体内埋植モジュールの開発」については、課題1の情報圧縮アルゴリズムを実装する集積回路のレイアウトまで完成し、マイクロプロセッサと接続する回路設計まで完成し、おおむね順調に進展している。課題4の「光覚シミュレータを用いた心理物理学実験評価」については、任意の電極配置に対する光覚パターンをシミュレーションできるシステムを開発した。シミュレーションモデルと現実に予測される個々の光覚強度や光覚位置のづれを加味したシミュレーションを行っており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で当初研究計画で上げた4つの課題の内、<課題2.事象駆動型スパイク人工網膜の開発>以外は、おおむね順調(あるいは予想以上)に進展している。そこで今年度前半は、課題2に注力して、分担者である大阪大学グループと共同研究を進める。網膜の時空間フィルターを内蔵した事象駆動型スパイク人工網膜(ニューロモーフィック網膜)は、世界的にも開発例がなく、脳刺激型人工網膜のみならず、視覚知能センサー、ICT機器としても幅広く普及が見込まれることがわかってきた。代表者が持つ既存の人工網膜は空間フィルターを有しているので時間フィルターをいかに組み込むかが大きな課題である。現在、基本回路を考案しシミュレーションによる動作も確認しているが、集積化には大きな面積が必要となり、予算上問題がある。今後も修正を試みるとともに、この問題に対処するために2つの可能性を考える。一つは画素規模を落として集積化すること、もう一つはスパイク発生機序をシリコン網膜と制御モジュール(体外モジュール)とのインターフェイスにデジタル回路として組み込むことである。<課題1視神経の情報符号化・通信アルゴリズムの人工視覚への応用>に関しては、開発中の情報符号化・通信のアルゴリズムは、人工視覚以外で知能視覚センサーとインターネットハブの無線接続や海中での画像通信などに応用が広がる可能性が見えてきた。そこで分担者の九州工業大学と共同で、人工視覚のためのシリコン網膜の画像処理手法を開発するとともに、これらの応用も視野に入れた開発研究を推進することとする。また<課題4. 光覚シミュレータを用いた心理物理学実験評価>においては、分担者である愛知淑徳大学の博士課程院生が他大学に就職のため転出した。このため代表者八木の研究室においても実験装置を立ち上げて、共同研究を推進する。年度後半には国際学会発表、論文投稿を予定している。
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