研究課題
近年の研究により、南極氷床がこれまで考えられていた以上に温暖化に対して敏感であることが明らかになり、今後の温暖化の進行による海面上昇に対する危機感が高まっている。そのため、「温暖化が進行した場合にどの段階でどのような速度で南極氷床融解が進行しうるのか?」が海面上昇予測における核心的な「問い」になっている。そこで本研究では、過去の温暖期を将来の温暖地球の類型と捉え、現在より全球平均気温が+1℃から+5℃(海面が+5から+40mまで上昇)温暖であった時代における南極氷床の融解過程を100年スケールの解像度で復元することで、+5℃まで温暖化が進行する過程における南極氷床融解のふるまいと特性を調べた。過去の温暖期の南極の環境変動の復元には国際深海科学掘削計画(IODP)において西南極ロス海で昨年掘削された海底堆積物コアを用いた。+3℃および+5℃まで温暖な気候状態における南極氷床の応答はそれぞれ中期鮮新世温暖期(330-300万年前)および中期中新世気候最適期(1600万年前)の南極の氷床と気候の実態解明により、明らかにする。中期鮮新世温暖期および中期中新世気候最適期の南極古環境復元はそれぞれ堆積物コアU1524およびU1521を用いた。南極氷床の動態は氷床融解の代理指標として提案されている脂肪酸の水素同位体比と氷山の代理指標として利用されている漂流岩屑(IBRD)の分析から推定し、海水温度はGDGT古水温法にて復元した。どちらの時代においても南極氷床が千年スケールでダイナミックに変動していたことが示唆された。一方で、ロス海の海水温度はどちらの時代も現在よりも数℃程度高い値を示した。これらの結果は数℃の水温上昇で南極氷床の著しい縮小が引き起こされることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
学術研究員と技術補助員を雇用し、サンプルの分析の効率化を図ったことで、鮮新世温暖期と中新世温暖期における高時間分解能の古気候データの生成にむけて予定していたデータを生成することができた。
今後は引き続き堆積物試料の分析を継続し、鮮新世温暖期と中新世温暖期における水温ならびに氷床融解記録の時間解像度を倍増させる。200-400年の時間解像度の古気候記録の生成を目指す。最終的に得られた古気候記録を解析し、本研究の目的である+5℃まで温暖化する過程における南極氷床の融解プロセスの実態を解明する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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